執筆者・監修者:薬剤師
「海外旅行、薬は持っていった方がいいかな」
「どんな薬を持っていけばいいのだろう」
「持っていけない薬はあるのかな」
海外旅行を安心して楽しむためには、体調不良や怪我などの「もしも」に備えることが大切です。旅先では気候・食事・生活リズムの変化など、いつもと違う環境から、思わぬ健康トラブルが起こる可能性があります。いざというときに慌てないためにも、常備薬を準備しておくと安心です。
本記事では、海外旅行に必携の常備薬と選び方のポイント、さらに薬を持ち込む際の注意点や薬局でできる旅行前のお薬サポートなどをわかりやすくご紹介します。
海外旅行で必携の常備薬リスト
海外旅行では日本と異なる環境により、普段は経験しないような体調不良が起きることがあります。旅行を快適に過ごすための必携の常備薬をご紹介します。
胃腸薬・整腸薬
海外では水質や食べ物の違いから、お腹のトラブルが最も多い健康問題です。特に衛生環境が異なる国では下痢、嘔吐のリスクが高まります。
<おすすめのお薬>
● 下痢止め薬(ロペラミド配合薬など)
● 整腸剤(ビオフェルミンなど)
● 胃もたれ・胃痛用(H2ブロッカー配合薬など)
下痢止めは症状を一時的に抑えますが、原因となる細菌を排出できなくなる場合もあるため、長期連用は避けましょう。発熱を伴う下痢の場合は細菌性の可能性があるため、現地の医療機関の受診を検討してください。
解熱鎮痛薬
長時間のフライトによる頭痛や肩こり、観光での歩き疲れによる筋肉痛など、痛みを伴う症状は旅行中によく起こります。また、急な発熱などで体調を崩す可能性もあります。解熱鎮痛薬は必携です。
<おすすめのお薬>
● ロキソプロフェン系(ロキソニンなど)
● イブプロフェン系(イブなど)
● アセトアミノフェン系(カロナールなど)
空腹時の服用は胃への負担が大きいため、食後の服用が基本です。アルコールと併用すると肝臓への負担が増大するため避けてください。持病がある方は、かかりつけ医に相談してから選びましょう。
風邪薬・のど飴
飛行機内の乾燥した空気や気候の変化、疲労から風邪をひきやすくなります。また、エアコンによる喉の乾燥も頻繁に起こります。風邪薬やのど飴も持参すると良いでしょう。
<おすすめのお薬>
● 総合感冒薬(PL配合顆粒など)
● 風邪の症状を和らげる漢方薬(葛根湯など)
● のど飴・トローチ
● 鼻づまり改善薬
眠気を引き起こす成分が含まれることがあるため、運転や機械操作の予定がある場合は注意しましょう。
酔い止め薬
船やバスでの移動、特に山道や波の荒い海域では予想以上の揺れで乗り物酔いを起こすことがあります。酔い止めを携帯しておくと安心です。
<おすすめお薬>
● 抗ヒスタミン系酔い止め(トラベルミンなど)
● 酔い止めパッチ
出発の30分〜1時間前に服用するのが効果的です。ただし、眠気を伴うことが多いので、一人旅などでは十分な注意が必要です。
目薬
飛行機内や乾燥した気候、プールや海での塩分などで目の乾燥や炎症が起こりやすくなります。ドライアイを防ぐ目薬や結膜炎に効果のある目薬は用意しておいた方が良いでしょう。
<おすすめのお薬>
● 人工涙液タイプの目薬(目の乾燥を和らげるために開発された、人間の自然な涙に近い成分で作られた目薬)
●軽度の結膜炎に対応できる抗菌成分入り目薬
コンタクトレンズ装用中は使用できない目薬もあるため確認が必要です。また、開封後は清潔に保管し、1ヶ月を目安に使い切りましょう。
応急処置用品、ケア用品
観光中のちょっとした擦り傷や虫刺されは頻繁に起こりますが、言葉の壁があると現地の医療機関での対応が難しい場合があります。絆創膏や消毒液などは持参した方が良いでしょう。また、リゾート地など日差しの強いところでは日焼け止めなどのケア用品も必須です。
<おすすめ品>
● 絆創膏
● 消毒薬(小型のウェットタイプが便利)
● 虫刺され用かゆみ止め
● 日焼け止め
傷口が深い場合や化膿している場合は、応急処置をしたままにせず医療機関を受診しましょう。特に熱帯地域では小さな傷でも感染リスクが高いため、清潔に保つよう注意してください。
アレルギー対応薬
食べ慣れない食材や環境の変化で予期せぬアレルギー反応が出ることがあります。特に食物アレルギーのある方は注意が必要です。
<おすすめのお薬>
● アレルギー用薬(抗ヒスタミン薬など)
● ステロイド配合塗り薬
特定の食材などでアレルギーがある方は、医師に相談の上、重症反応に備えたお薬も検討してください。重篤なアレルギー症状が出た場合は、医療機関を受診してください。
常備薬の選び方のポイント
旅行用の常備薬は、効果的に健康トラブルに対応できるよう、以下のポイントに注意して選びましょう。
使い慣れている薬を優先する
国内でも使用経験があり、自分の体質に合うことがわかっているお薬を選ぶことが重要です。初めて使用するお薬は、予期せぬ副作用が出る可能性があります。
<ポイント>
● 普段から使用しているお薬なら、効果や副作用の予測ができる
● 体調不良時に初めてのお薬を試すのはリスクが高い
● 日本語の説明書があれば、いざというときに確認できて安心
症状ごとに最低限の薬を備える
荷物を最小限に抑えつつも、主要な症状には対応できるよう、効率的なお薬の選択が必要です。
<ポイント>
● 「胃腸のトラブル」「痛み・発熱」「風邪症状」「外傷」の4カテゴリーは必須
● 渡航先の特性(高山病リスクの高い地域など)に応じた追加薬も検討
服用しやすい形状やサイズを選ぶ
旅先での服用のしやすさも重要なポイントです。
<ポイント>
● 水なしで服用できる口腔内崩壊錠は、清潔な水の確保が難しい場所で便利です
● シート包装のお薬は耐湿性に優れているため、湿度の高い地域にも適しています
● 小分け包装になっているものは、必要な分だけ持ち歩くのに適しています
薬の英語名や成分名を調べておく
万が一、お薬が足りなくなった場合や現地で医師の診察を受ける際に役立ちます。
<ポイント>
● 主要成分の英語名をメモしておくと、現地の薬局で類似品を探しやすい
● スマートフォンに写真を保存しておくと、言葉が通じない場合も助かります
● 特に処方薬は正確な成分名と用量を記録しておきましょう
海外へ薬を持ち込む際の注意点
海外へお薬を持ち込む際には、予期せぬトラブルを避けるため、以下の点に注意しましょう。
本来の容器に入れて持参する
お薬は元の包装や容器のまま持参することが基本です。成分や用法・用量が明記されているため、緊急時に医療従事者が確認できます。また、空港の保安検査でお薬の確認が必要になった際に説明がしやすいです。
渡航中に必要な分以上の持参を避ける
必要以上の量のお薬を持参すると、密輸の疑いをかけられる可能性があります。基本的には滞在日数+予備2〜3日分程度が目安でしょう。慢性疾患の治療薬は医師に相談の上、適切な量を決定しましょう。
薬について証明できる文書を用意する
特に処方薬や注射器などを持参する場合は、それが医療目的であることを証明する文書が必要です。
<書類の例>
● 英文薬剤証明書
● 薬剤情報提供書(薬局で発行してもらえる薬の説明書)の英訳版
● 医師の診断書(特に当該国で規制薬物を服用している場合)
医薬品の持ち込みルール
日本国内では問題ない医薬品でも、海外では規制対象となる薬剤もあります。ここでは、基本的な持ち込みルールと国ごとのルールを紹介します。
基本的な持ち込みルール
海外にお薬を持ち込む際は、個人使用目的であることが重要です。通常、個人が使用する適切な量であれば問題ありません。ただし、大量の薬は密輸の疑いをかけられる可能性があります。また、日本では合法でも、訪問国では違法となる薬剤があります。規制された医薬品そのものでなくても、規制薬物に類似した成分を含む薬も同様に注意が必要です。
処方薬については薬剤証明書や診断書を持参すると良いでしょう。可能であれば英文の書類を用意しましょう。医療機関によっては、英文薬剤証明書や英文診断書を作成してくれるところもあります。調剤薬局でも、お薬の英文説明書やお薬手帳の英訳版を用意してくれます。
国別の特徴的な規制例
厚生労働省の情報に基づき、海外渡航先で規制される医薬品について紹介します。ただし、全ての規制を網羅しているわけではありませんので、必ず当局に確認するようにしてください。
<アメリカ合衆国>
海外旅行時のお薬の持ち込みについて、必要な量だけを持参するのが原則です。睡眠薬のフルニトラゼパムは日本では認可されていますが、米国への持ち込みが禁止されています。
咳止め薬、精神安定剤、鎮静剤、睡眠薬、抗うつ鬱剤、興奮剤など常習性のある薬を持ち込む場合は、医師の診断書と薬剤証明書を用意し、日本語の場合は英訳して翻訳者のサインを付けてください。
入国時には持参するお薬、診断書、薬剤証明書とその英訳を税関で申告し、お薬は元の容器のまま持ち込むようにしてください。
<中国>
中国に医薬品を持ち込む際には、医療用麻薬および向精神薬の使用量や携帯に関する明確な規定があります。中国の法律では、入国者が持ち込める医薬品は自己使用のための合理的な量に限定されています。処方薬については、7日を超える処方の場合、医師が理由を記載した診断書が必要となります。
また、処方薬を持ち込む際は、使用回数、日数、処方効果が明記された医師の診断書を必ず携行してください。入国時のトラブルを避けるためには、事前に入国予定の空港税関局に問い合わせることをお勧めします。
また、長期滞在を予定されている方は、中国国内で必要な医薬品が入手できるかどうか、現地の医療機関に事前に確認しておくとよいでしょう。
<ヨーロッパ(シェンゲン協定国)>
EUへの医薬品持ち込みについては、個人使用目的であれば基本的に90日分まで許可されています。ただし、モルヒネなど麻薬法の対象となる医薬品については特別な規定があります。
このようなお薬を持ち込む場合、旅行期間に見合った必要量のみ携行でき、処方医による英語の証明書が必要です。この証明書には1回・1日あたりの服用量、有効物質名、旅行日数の記載が必要で、旅行中は常に携帯しておくべきです。
なお、EU内でも国によって医薬品の規制は異なりますので、訪問予定の国の大使館ウェブサイトで最新情報を事前に確認することをお勧めします。
<オーストラリア>
オーストラリアでは「旅行者向けの例外措置」により、個人や同伴する家族が使用する医薬品や医療器具の持ち込みが認められています。この制度を利用する際は、医師による英文の薬剤証明書または診断書を準備し、医薬品は元の包装のままラベルを剥がさないでください。
持ち込み可能な量は最大3ヶ月分までで、到着時には全ての医薬品をオーストラリア国境警備隊に申告する必要があります。この例外措置は手荷物内の医薬品にのみ適用され、自分や同伴家族以外の使用目的での持ち込みはできません。
なお、特定の成分を含む薬品(ホルモン剤や中絶薬など)を携帯する場合や3ヶ月分以上の医薬品を持ち込む場合は、Drug Control Sectionからの許可が必要です。また、アリルイソプロピルアセチル尿素が配合された「イブ」や「バファリン」など、市販薬でも持ち込みが禁止されているものもありますので注意してください。
入国時のトラブルを避けるため、これらのルールに従うことが重要です。
医師や薬剤師に相談したほうがよいケース
以下のような場合は、旅行前に医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
複数の錠剤を「一包化」してしまった
服用の便宜を図るために薬局で一包化(複数の薬を一つの袋にまとめること)してもらっている場合、海外では問題になることがあります。
<理由>
● 外観からどのような医薬品か確認することが難しくなる
● 税関で不審に思われ、詳細な検査の対象となる可能性がある
● 規制薬物と間違われるリスクがある
<対応策>
● 旅行期間中だけでも元のPTPシート包装(指で押し出して取り出すシート)に戻してもらう
● 薬剤師に英文の薬剤リストを作成してもらう
● 海外旅行用の別の服薬管理方法を相談する
粉薬を服用している
粉末状のお薬は、特に注意が必要です。
<理由>
● 外観が違法薬物(特に粉末状の違法薬物)に似ているため、疑いをかけられやすい
● 個別包装でも成分の特定が難しい
● 一部の国では粉末薬の持ち込みに特別な制限がある
<対応策>
● 可能であれば旅行期間中は錠剤やカプセル剤に変更できないか相談する
● 医師の英文証明書を必ず用意する
● 元の外箱と添付文書を必ず持参する
医療用麻薬や向精神薬を服用している
麻薬や向精神薬に分類される薬剤(強い鎮痛剤、睡眠薬、抗不安薬など)は、国際的に厳しく規制されています。以下の必要な手続きと注意点を参考にしてください。
<必要な手続き>
● 出国日の2週間前までに、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部に「携帯輸出許可申請書」の提出が必要
● 医師の診断書(英文)の準備
● 渡航先の国によっては事前に輸入許可を別途取得する必要がある場合も
<注意点>
● 国によっては日本で合法なお薬でも違法とされる場合がある
● 必要量以上の持ち込みは絶対に避ける
● 現地で紛失した場合に備えて、同等薬の入手方法を事前に確認しておく
注射薬を使用している
インスリンなどの注射薬を使用している場合は、以下の特別な準備が必要です。
<ポイント>
● 医師の英文診断書を必ず携行
● 注射針や注射器は医療目的であることの証明が必要
● 保安検査の際に申告が必要
薬局でできる旅行前のお薬サポート
海外旅行前のお薬の準備には、薬局の薬剤師に相談するのが効果的です。多くの薬局では以下のようなサポートを提供しています。
常備薬・市販薬の選び方サポート
薬剤師は個人の健康状態や渡航先に合わせた適切な常備薬の選定をサポートします。以下のようなサービス例を提供している薬局もありますので、相談してみましょう。
<提供サービス例>
● 渡航先の特性(気候・衛生状況など)に合わせた推奨薬の提案
● 持病や体質に合わせた安全な市販薬の選定
● コンパクトな旅行用救急セットの提案
薬の飲み合わせ・服用方法の確認
海外旅行を計画されている方で複数のお薬を服用している場合は、事前にお薬の安全性を確認しておくことが大切です。
旅行先での健康維持のために、現在服用中のお薬と携行する常備薬の相互作用をチェックしておくと安心です。また、国をまたぐ移動では時差が生じるため、普段の服薬スケジュールの調整方法についてアドバイスを受けておくと良いでしょう。
さらに、長時間のフライト中にお薬を服用する必要がある場合は、機内での服用に関する特別な注意点も確認しておくことをお勧めします。薬局で事前に相談しておくことで、海外旅行中も適切にお薬を管理し、健康に過ごすことができます。
英文薬剤情報の準備や制度案内
薬局では、海外でお薬の説明が必要になった場合に備えた資料の準備をサポートしてくれます。
<提供可能な資料例>
● 服用中のお薬の英文説明書(薬材情報提供書の英語版)
● 英文お薬手帳の作成サポート
まとめ:安心して旅行を楽しむために
海外旅行を健康に楽しむためには、事前の準備が何より大切です。常備薬の選定から持ち込み手続きまで、計画的に準備しましょう。
特に、処方薬を服用している方は、旅行の3週間前から1ヶ月前には医師や薬剤師に相談し、必要な書類や対応策を確認することをおすすめします。海外旅行での医薬品持ちこみについて気になることがある方や詳しく知りたい方は、お近くの薬局で相談をしてみましょう。
気軽に薬局の薬剤師に相談してみたい方は、LINEの「つながる薬局」というサービスを使ってみるのもおすすめです。LINEのつながる薬局を友だち追加し、お好きな薬局をかかりつけ薬局として登録すると、「薬局に相談」という機能を使って気軽に薬局の薬剤師に健康相談ができます。
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体調管理は旅行を楽しむための基本です。時差ボケ対策や現地での食事・水分摂取にも注意し、万全の状態で旅の思い出を作りましょう。


