執筆者:看護師・監修者:薬剤師
「しっかり水を飲んでいたのに、熱中症になってしまった…」
このような経験はありませんか?実は、汗をかくと水分だけでなく塩分やミネラルも失われるため、バランスよく補給しなければ熱中症や脱水症状が悪化してしまうこともあるのです。この記事では、熱中症対策として重要な塩分・ミネラル補給のポイントをわかりやすく解説します。夏をすこやかに乗り切るために、ぜひ参考にしてください。
水分補給だけに頼るリスクとは
水分だけを摂っていても、熱中症は防ぎきれません。塩分やミネラルの補給が不足すると、体はバランスを崩しやすくなってしまいます。ここでは、水分補給だけに頼るとどういった状態に陥るのか、以下の3つのポイントから解説していきます。
● 汗をかくことで水分だけでなく塩分やミネラルも失われる
● 水分だけ補給すると塩分濃度がさらに低下
● 体内の塩分濃度を保とうと余計に汗がでるため危険な状態に
それぞれ詳しく説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
汗をかくことで水分だけでなく塩分やミネラルも失われる
汗の成分には、水分だけでなくナトリウムやカリウムのほか、マグネシウムといったミネラルも含まれています。ミネラルは体の調子を整えるうえで重要な栄養素であり、水分の調整や筋肉・神経の働きを支えています。汗を大量にかくことで体内のミネラルバランスが崩れ、体温調節や神経伝達がうまくできなくなり熱中症のリスクが高まるのです。
特に真夏や湿度の高い日には、汗をかきやすく発汗量も増えることから、普段よりも塩分の喪失量が増えやすいので注意しましょう。
水分だけ補給すると塩分濃度がさらに低下
汗をたくさんかいたあとに水分だけを大量に摂取すると、血液中の塩分濃度がさらに低下し「低ナトリウム血症」という状態に陥る恐れがあります。これは体液が薄まりすぎてしまい、体内のミネラルバランスが崩れることで発症し、頭痛や吐き気のほか、重症化すると意識障害といった症状を引き起こすのが特徴です。発汗によって多くの塩分も一緒に失われているため、水だけでなく塩分をあわせて摂取すると、塩分濃度の低下を防ぎやすくなります。
体内の塩分濃度を保とうと余計に汗がでるため危険な状態に
人間の体には、体の状態を一定に保とうとする「ホメオスターシス(生体恒常性)」という機能が備わっています。体内の塩分が不足すると、ホメオスターシスにより体はバランスを取るべく、血中のナトリウム濃度を一定に保とうとします。そのための一つの反応が「さらに水分を出す」こと。これにより、体内の水分と塩分がさらに失われ、結果として熱中症による脱水のリスクが高まるという悪循環に陥る可能性があります。
つまり、熱中症や脱水などの状態では、単なる水分補給のみでは対応できず、悪化させてしまうリスクもあるのです。
塩分・ミネラル不足による症状
汗をかくと、水分だけでなく塩分やミネラルも不足することがあります。ここでは、塩分やミネラルが不足してしまうとどのような症状が引き起こされるのか、具体的に解説していきます。
● 軽度:めまい・頭痛・倦怠感・吐き気
● 中度:筋肉のけいれん・ふらつき
● 重度:意識障害・けいれん
症状には上記3つの段階があるので、万が一、熱中症の心配があったときにすぐ気づけるよう押さえていきましょう。
軽度:めまい・頭痛・倦怠感・吐き気
塩分やミネラルが不足し始めると、まず現れるのが軽度の不調です。めまいや頭痛、全身のだるさといった倦怠感、そして吐き気などが代表的な症状。これらは一時的な体調不良と見過ごされがちですが、熱中症の初期サインであることも少なくありません。特に高温多湿の環境下では、発汗により体内のミネラルバランスが乱れやすくなります。こうした軽い不調を見逃さず、早めに水分と塩分を補給してあげると、重症化を防ぎやすくなるでしょう。
中度:筋肉のけいれん・ふらつき
塩分やミネラルの不足が進行すると、筋肉のけいれんや足のつりといった症状が現れやすくなります。これはナトリウムやカリウムといったミネラルが失われ、神経や筋肉の正常な働きが妨げられることで起こる症状です。また、立ち上がったときにふらついたり、体が思うように動かせなくなるケースもあります。これらの症状は、熱中症の中等度の段階に分類されるため、早急な対応が必要です。
重度:意識障害・けいれん
塩分やミネラルの不足がさらに進行すると、重症な熱射病としてけいれんや意識障害が生じることがあります。これは、体内のナトリウム濃度が大きく低下し、神経や脳の働きに深刻な影響を及ぼすためにおこる症状です。また、けいれん発作や呼びかけに反応しない状態は、熱射病の症状が危険な段階にまで達しているサインであり、すぐに医療機関への受診が必要です。
もし外出先でこのような重度の症状を発症した場合は、できるだけ体を冷やしながらすぐに救急要請し、病院を受診しましょう。
効果的な塩分・ミネラル補給
ここでは、塩分・ミネラルの効果的な補給方法と注意点について説明します。
おすすめの飲み物・食べ物
熱中症対策として効果的な塩分・ミネラル補給には、飲み物と食べ物の両面からの工夫が大切です。発汗が多い時は、ナトリウムを含む経口補水液を、運動や外出時には糖分と塩分のバランスがとれたスポーツドリンクの摂取が適しています。
また、普段の生活では、ミネラルを含む麦茶やルイボスティーなどをこまめに飲むのがおすすめ。食事からは、味噌汁や梅干し、塩昆布などの塩分を含む食材を活用することで、自然に塩分とミネラルを補えます。
ポイントと注意点
塩分やミネラルの補給は、量とタイミングがポイントです。厚生労働省では、熱中症リスクのある日の飲料選びのコツについて以下のように示しています。
0.1から0.2%の食塩水又はナトリウム40g〜80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度は摂取することが望ましい。
引用:厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル|(3)水分及び塩分の摂取」より
上記の飲料を摂取するタイミングとして、なるべくのどの渇きを感じる前から、こまめに少量ずつ補給するのがおすすめです。なお、カフェインやアルコールは利尿作用があるため、脱水を促進してしまう恐れがあります。補給する飲料に含まれる成分に注意すると安心です。
特に注意が必要な方
熱中症対策はすべての方に必要ですが、体温調節機能が低下している高齢者や子どもは特に注意が必要です。熱中症の症状に気づきにくく重症化しやすいため、より細やかな対策が求められます。ここでは、高齢者と子ども、それぞれの特徴と注意するポイントを紹介します。
高齢者:のどの渇きを感じにくく、脱水リスクが高い
高齢者は加齢によって、のどの渇きを感じにくくなるため、水分や塩分の摂取が遅れがちに。その結果、知らないうちに脱水状態が進行してしまうことがあります。また、体内の水分量自体が若年層に比べて少ないため、発汗により体液を失いやすく、脱水症状を起こしやすい傾向にあります。さらに、腎機能や自律神経の働きが低下することで、体温調節も難しくなるのも特徴のひとつです。
そのような高齢者への熱中症予防のポイントとしては、決まった時間にこまめな水分と塩分の補給を促すこと。梅雨時期から残暑すぎる頃までは、周囲からの見守りや声かけをすると、日頃の体調観察や体調変化の早期発見にもなり効果的です。
子ども:体温調節機能が未熟で、汗とともにミネラルを多く失う
子どもは体温調節機能がまだ十分に発達していないため、暑さや湿度の影響を受けやすいのが特徴です。体表面積が小さいにもかかわらず、汗腺の数が大人と変わらないため、体内の水分が蒸発しやすく汗と一緒にミネラルを失いやすい傾向があります。さらに、遊びに夢中になってのどの渇きを自覚しにくく、水分補給が遅れがちになることも一因。炎天下での運動や通学時などは、こまめな水分と塩分補給が必要不可欠ですが、子どもだけでは注意が難しいこともあるでしょう。
そのため、大人が意識して水分や塩分・ミネラル補給のタイミングを作ってあげるのがおすすめです。そのほかにも、汗が乾きやすく涼しい衣服を選んだり塩タブレットを持たせたりといった工夫をすることで、より効果的な熱中症予防につながるでしょう。
まとめ
今回は、熱中症予防には水分の摂取だけでなく、塩分やミネラルもあわせて摂取する必要があることについて詳しく解説しました。これから気温や湿度が上がりやすくなる季節のため、ぜひ本記事を参考にすこやかな夏を過ごしてください。