執筆者・監修者:薬剤師
百日咳(ひゃくにちせき)は、風邪と似た症状から始まる細菌感染症で、今年は爆発的に流行しています。子どもだけでなく、大人もかかる可能性があり、特に赤ちゃんや高齢者は重症化のリスクがあるため注意が必要です。この記事では、百日咳の特徴や予防法、薬局で受けられるサポートについて薬剤師の視点からわかりやすく解説します。
百日咳とは?
百日咳(ひゃくにちせき)は、激しい咳が長く続く感染症です。特に乳幼児がかかると重症化するリスクが高く、注意が必要です。ワクチンで予防できる病気ですが、最近では免疫の効果が薄れてきた大人から子どもへうつるケースも増えています。
2025年には感染者数が過去最多を記録し、改めてその予防の重要性が注目されています。まずは百日咳の特徴について解説します。
原因
百日咳の原因は、百日咳菌という細菌です。インフルエンザやコロナとは異なり、ウイルスではありません。百日咳菌が体内に入ると、気道の粘膜に感染して毒素を放出し、激しい咳の発作を引き起こします。特に乳児やワクチン未接種の子どもは感染しやすく、重症化のリスクも高くなります。
また、大人でも一度かかったからといって免疫が一生続くわけではなく、数年で抗体が減少するため再感染の可能性もあります。つまり、年齢を問わず注意が必要な感染症です。
感染経路
百日咳の主な感染経路は飛沫感染です。感染者のくしゃみや咳によって飛び散る小さなしぶき(飛沫)を吸い込むことで感染します。百日咳は感染力が非常に強く、特に家庭内や保育園、学校など、人が密集する場所で感染が広がりやすくなります。症状が軽い大人が気づかないうちに子どもへ感染させてしまうケースも多く、家庭内感染の予防が重要です。
潜伏期間
百日咳の潜伏期間は、一般的に7〜10日程度ですが、個人差があります。この期間中は症状が現れにくく、自覚がないまま周囲に感染を広げてしまう恐れがあります。初期症状は風邪に似た軽い咳やくしゃみで、発熱はあまり見られません。そのため、初期の段階で百日咳と診断するのは難しいと言われています。潜伏期間中や感染初期でも感染力は強いため、早めの受診と対策が大切です。
主な症状
次に百日咳の主な症状について解説します。特に子どもや高齢者では重症化するリスクが高いので注意が必要です。
初期症状
百日咳の初期症状は、風邪とよく似ています。軽い咳やくしゃみ、鼻水などが見られ、発熱はあまり目立ちません。この段階では百日咳と気づかず、通常の風邪として見過ごされることも多いです。しかし、この時期でも他人にうつす可能性があり、感染拡大の原因となります。
特に身近に乳幼児や高齢者がいる場合や、周囲で百日咳にかかった人がいる場合は、風邪のような症状でも慎重に対応し、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
症状の特徴
百日咳の症状の特徴は、数週間から数か月続く慢性的な咳です。百日咳菌は粘膜に付着し、そこから毒素を産生します。この毒素の影響で気道の分泌物がうまく排出されず、頑固な咳が続くようになります。咳は夜間から明け方にかけて悪化しやすく、睡眠不足や胸・背中の筋肉痛、さらには食欲不振を引き起こすこともあるでしょう。
特に子どもの場合は、咳のあとに息を吸うと「ヒュー」と音が鳴ったり、激しい咳の後に嘔吐するケースも見られます。また、百日咳菌が作り出す毒素には抗生物質が効かないため、咳が長引き始めると治療が難しくなることも覚えておきましょう。
特に注意すべき人
百日咳はすべての年齢層に感染の可能性がありますが、特に注意が必要なのが乳幼児や高齢者です。乳幼児では特徴的な咳があまり見られない一方で、突然呼吸が止まってしまう無呼吸発作や、けいれんを引き起こすリスクがあります。特に生後6か月未満の赤ちゃんでは重症化しやすく、入院が必要になることもあります。また、体力や免疫力が低下した高齢者では、百日咳菌への感染が肺炎を引き起こすリスクにつながるため注意が必要です。
今年の流行の特徴
今年は百日咳の感染者数が過去最多を更新し、全国的に大きな流行となっています。国立健康危機管理研究機構によると、6月29日までの1週間に報告された百日咳の患者数は3,353人で、過去最多となった前の週の3,211人をさらに上回りました。7月現在も増え続けています。
2021~2023年は、0〜4歳の割合が大きく増加し、全体の約25%を占めていましたが、2024年、2025年は10~19歳が大きく増加し全体の約50%を占め、0~4歳の割合が減少しています。2025年は、同じ地域で患者さんが集中的に発生しているケースや、学校などで集団感染が起きているとみられる報告もあるため、特に注意が必要です。
日頃からできる予防法
百日咳は飛沫感染するため、日常生活の中での予防対策が重要です。家族に乳幼児や高齢者など、重症化しやすい方がいる場合は特に注意しましょう。ワクチンの接種に加え、手洗い・うがい・換気の習慣を意識することで、百日咳だけでなく他の感染症の予防にもつながります。ここからは、百日咳の予防法について解説します。
ワクチン接種
百日咳の予防には、ワクチン接種が最も効果的です。ワクチン接種を受けることで、百日咳にかかるリスクを80~85%程度減らせます。
日本では、百日咳を含む「四種混合ワクチン(DPT-IPV)」が乳児期の定期予防接種として行われています。ただし、抗体は時間とともに減少するため、5~6歳ごろになると免疫が弱まり、再び感染しやすくなる点に注意が必要です。このため、日本小児科学会では、免疫を補強するために就学前の追加接種を推奨しています。さらに余裕があれば、小学校高学年の時期にも追加接種を検討するとよいでしょう。
追加接種は任意接種となり、費用は自費となりますが、百日咳の予防には効果的な方法です。
手洗い・うがい
飛沫や接触を通じた感染を防ぐには、こまめな手洗い・うがいが効果的です。外出先から帰宅した後や、食事の前後、人混みに行った後などは特に意識しましょう。石けんを使ってしっかりと手を洗うことを心がけ、口や鼻、目を不用意に触らないように意識することも感染予防に役立ちます。
定期的な換気
室内の空気がこもっていると、ウイルスや細菌が滞留しやすくなります。1〜2時間おきに窓を開けるなど、定期的な換気を心がけましょう。空気の入れ替えを行うことで、百日咳をはじめとする感染症のリスクを下げることができます。
薬局で受けられるサポート
百日咳が疑われる場合、薬局でもさまざまなサポートを受けることができます。市販薬の選び方から、現在服用中の薬との飲み合わせ、受診の必要性など、不安な点を気軽に相談できるのが薬局の強みです。薬剤師は薬の専門家として、一人ひとりの体調や状況に応じたアドバイスをしてくれるので気になることがある場合は相談してみましょう。
対症療法の相談
薬局では、日常生活に支障が出るようなつらい症状に対して、市販薬で一時的に症状を和らげる「対症療法」の相談が可能です。
百日咳の治療には抗生物質が使われ、抗生物質は百日咳菌には効果がありますが、菌が作り出す毒素にはまったく効果がありません。つまり、百日咳菌が作り出した毒素によってひどい咳が続く段階になると有効な治療法がなく、症状を抑える対症療法をしながら毒素が抜け切るのを待つしかないのです。
薬剤師は症状や年齢、持病の有無などをふまえて、処方薬の内容を確認した上で適切な市販薬を提案してくれます。例えば「ひどい咳で肋骨のあたりが痛む」など、処方されたお薬とは別の症状でお困りの際は、まず薬局で相談してみるとよいでしょう。
抗生物質との飲み合わせ確認や服薬相談
すでに医療機関で抗生物質を処方されている場合、市販薬やサプリメントを使うときは飲み合わせに注意しなければなりません。薬局では、薬剤師が抗生物質の働きを妨げないよう適切なアドバイスをしてくれます。また、「この薬を飲んでから体調が変わった気がする」などの服薬後の不安も相談できます。自己判断での併用や中断を避けるためにも、薬剤師に相談しましょう。
受診の目安についてのアドバイス
咳が長く続いているものの、病院に行くほどの症状かわからない。そんなときは薬剤師に相談するのも一つの方法です。薬剤師は症状の経過や周囲の感染状況を考慮しながら、医療機関の受診が必要かどうかをアドバイスしてくれます。特に乳幼児や高齢者の場合、早期の受診が勧められることもあるため、迷ったときは薬局を頼ってみましょう。
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