執筆者・監修者:薬剤師
「最近なんとなくお腹の調子が悪い…」
そんなとき、整腸剤を手に取る方も多いのではないでしょうか。便秘や下痢などの不調に使われる整腸剤ですが、どんな種類があるのか、どう使えばよいのか迷うこともありますよね。今回は、整腸剤の基本や選び方、注意点について薬剤師がわかりやすく解説します。
整腸剤とは?
整腸剤とは、腸内細菌のバランスを整えて便秘や下痢、お腹の張りなどの不調を改善するお薬です。まずは、整腸剤の役割や便秘薬・下痢止めとの違い、医療用と市販薬の違いについて解説します。
腸内環境を整える薬
整腸剤とは、腸内細菌のバランスを整えることで、便秘や下痢といったお通じの異常やお腹の張りなどの不快な症状を改善するお薬です。腸内には約1,000種類もの細菌が住んでいます。腸内細菌は善玉菌と悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん)に分類でき、3種類の菌が2:1:7の割合で存在している状態が理想的な状態です。
腸内細菌のバランスが乱れると、便秘や下痢、お腹の張りなどの不調が起こりやすくなります。整腸剤は善玉菌を補ったり、腸の働きを助ける成分を加えることで腸内細菌のバランスを整えます。
便秘薬や下痢止めとの違い
整腸剤と便秘薬や下痢止めとの主な違いは、作用のメカニズムです。
便秘薬は、腸の動きを刺激したり、便をやわらかくすることで排便を促します。特に腸の動きを刺激するタイプの便秘薬は腹痛が起こりやすいことや、続けて使用することで薬への慣れが生じ効きにくくなることもあり、長期間の使用はおすすめできません。
下痢止めは、腸の動きを止めたり、腸内の過剰な水分を吸着することで下痢の症状を抑えます。ウイルスや細菌が原因となっている下痢の場合は、下痢止めを使ってしまうとウイルスや菌が排出されにくくなり、症状が長引く可能性があります。
一方で整腸剤はビフィズス菌や乳酸菌など、人間の腸にもともと存在している菌を成分としています。作用は穏やかですが、長期間服用することで腸内細菌のバランスが整い、便秘や下痢の改善が期待できます。
医療用と市販薬の違い
整腸剤には医師が処方する医療用と、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬があります。医療用と市販薬では、類似した名称の商品であっても成分や成分の配合量に違いがあります。以下によく使われる整腸剤であるビオフェルミンの成分と成分の配合量をまとめました。
| 成分量 | |
| ビオフェルミン錠(医療用) | ビフィズス菌12mg |
| 新ビオフェルミンS錠(市販薬) | コンク・ビフィズス菌末18mg コンク・フェーカリス菌末18mg コンク・アシドフィルス菌末18mg |
医療用の場合、医師が患者さんの症状に合わせて用法・用量を決めるのに対し、市販薬の場合は年齢によって用法・用量が決められているという点にも違いがあります。
どんなときに使う?
整腸剤は腸内環境の乱れにより、便秘や下痢などの症状があるときに使います。ここからは整腸剤の使用が適した症状について解説します。
便通の乱れ(便秘・下痢が続く時)
便秘や下痢が数日以上続くとき、整腸剤の服用が効果的なことがあります。便秘薬や下痢止めは一時的な対処に有効ですが、根本的な治療にはなりません。
整腸剤を使って腸内の善玉菌を増やすことで、腸の動きを整え、自然な排便リズムを取り戻すサポートができます。ただし、便秘や下痢が長期間続く場合は他の病気が隠れていることもあるため、必ず医師の診察を受けましょう。
食生活の乱れ
偏った食事や外食が続くと、腸内環境は悪化しやすくなります。脂っこいものや甘いものをとりすぎると悪玉菌が増え、便通の乱れやお腹の張りなどの不快な症状につながる場合もあります。
整腸剤を服用することで腸内環境が整いやすくなりますが、腸内環境の改善には食生活の見直しも欠かせません。脂っこいものや甘いものの摂り過ぎに注意しつつ、腸内環境を整える効果があると言われている発酵食品や食物繊維を意識的にとると良いでしょう。
ストレスで腸内環境が崩れている時
腸は「第2の脳」とも呼ばれ、ストレスの影響をとても受けやすい臓器です。受験や大切な会議の前などに緊張やストレスでおなかの調子が悪くなったことがある方も多いでしょう。ストレスを感じると交感神経が優位になり、消化機能が低下します。消化の働きが落ちると腸内で悪玉菌が増え、腸内細菌のバランスが乱れてしまいます。
整腸剤は善玉菌を増やし、腸内環境を整えるため、ストレスによる便秘や下痢にも効果的です。
抗生物質服用後の腸内ケア
抗生物質は病原菌を退治する薬ですが、同時に腸内の善玉菌も減らしてしまうことがあります。その結果、下痢やお腹の張り、腹痛などの副作用が起こることもあります。
抗生物質に併せて整腸剤が処方されることも多いですが、抗生物質と同時に服用する場合は整腸剤の選び方が重要です。整腸剤に含まれる乳酸菌やビフィズス菌なども細菌の1種であるため、通常は抗生物質の作用により、整腸剤に含まれる菌も死んでしまいます。
抗生物質と併用する場合は、抗生物質に耐性のある菌を含む整腸剤を使用するようにしましょう。
整腸剤の主な種類と成分
整腸剤の主な成分として、乳酸菌や納豆菌、酪酸菌などがあります。そのほか、生薬由来の成分を含む整腸剤もあります。整腸剤の主な成分の特徴を解説します。
乳酸菌製剤(ビフィズス菌、ラクトミンなど)
整腸剤で最も一般的なのが乳酸菌製剤です。乳酸菌製剤は、小腸〜大腸で増殖して乳酸を産生し、腸管内の環境を酸性に保ちます。乳酸菌製剤には腸管内の環境を酸性に傾けることで有害菌の増殖を防いだり、腸の活動を促して便通を整える働きがあります。
ビフィズス菌は年齢とともに減少することが知られており、軟便傾向の人の腸内にはビフィズス菌が少ないという研究結果もあるようです。
納豆菌や酪酸菌などの有用菌
納豆菌や酪酸菌も整腸剤に使われる有用菌(体に有益な働きをする菌)です。納豆菌は胃酸に強く、生きたまま腸まで届いてビフィズス菌や乳酸菌の増殖を助けます。納豆菌単独で用いられることは少なく、ビフィズス菌や乳酸菌と一緒に整腸剤に配合されていることが多い成分です。
酪酸菌は腸内で酪酸を産生し、腸内環境を酸性に傾けます。また、酪酸菌は腸の動きを活発にする力が強く、便通の改善にも効果的です。抗生物質に耐性があるため、抗生物質と併用する整腸剤としてよく用いられます。
生薬由来の整腸成分を含むもの
整腸剤の中には、生薬由来の整腸成分を含むものもあります。
代表的な生薬由来の整腸成分として、太田胃散整腸薬に含まれる「ゲンノショウコ」や「アカメガシワ」などがあります。これらの生薬は、乱れた腸の動きを正常化して便通異常を改善するとともに、腸内環境を善玉菌が定着しやすい状態に整えてくれます。
市販の整腸剤を選ぶときのポイント
市販の整腸剤を選ぶときは、成分を確認するとともに、自分の症状に合っているか、飲み方が自分のライフスタイルに合いそうかを確認しましょう。市販の整腸剤を選ぶときのポイントを解説します。
成分表示を確認する
整腸剤を選ぶ際は、まず成分表示を確認しましょう。乳酸菌なのか、酪酸菌なのか、生薬が含まれているのかによって効果の特徴が変わります。特に「どの菌種が入っているか」を見ることで、自分の症状に合った整腸剤を選びやすくなります。
自分の症状にあったものを選ぶ
便秘がちな人と軟便傾向の人では効果的な整腸剤は異なります。便秘がちな人は腸の蠕動運動を促す作用のあるビフィズス菌や酪酸菌が含まれるもの、下痢を繰り返す人には乳酸菌が多く配合されたものなど、自分の症状に合った整腸剤を選ぶことが大切です。
複数の菌を組み合わせたタイプは幅広い症状に対応できます。
飲み方・タイミングの確認
整腸剤は毎日続けて服用することで効果を発揮するお薬です。食後に飲むものが多いですが、製品によっては空腹時の方が良い場合もあります。1日の服用回数や服用タイミングを確認しておきましょう。
薬剤師に相談できること
市販の整腸剤を購入する際に困ったことがあれば、薬剤師に相談してみましょう。ここからは薬剤師に相談できることを紹介します。
整腸剤と便秘薬・下痢止めの使い分け
整腸剤は腸内環境を整える薬ですが、即効性はありません。そのため、便秘や下痢の症状が強いときは便秘薬や下痢止めを短期的に併用することもあります。薬剤師はそれぞれの薬の特徴を踏まえて、症状に応じた使い分けのアドバイスをしてくれます。
抗生物質との併用の注意点
抗生物質による副作用を予防するために整腸剤を一緒に飲む場合は、抗生物質に耐性のある整腸剤を選ぶことが大切です。市販薬で対応する場合は、酪酸菌製剤を使用することが多いです。
どの整腸剤が抗生物質との併用に適しているかわからないときは薬剤師に相談してみましょう。
食事・生活習慣のアドバイスも一緒に
薬剤師は薬のことだけでなく、食事や生活習慣の改善についてもサポートしてくれます。
腸内環境を整えるためには、食事・生活習慣の改善も大切です。発酵食品や食物繊維をとる、脂っこいものや甘いものを控えるなど、食生活を見直すことで便通異常やお腹の張りなどの不快な症状の改善につながります。
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こんなときはすぐに受診を
整腸剤はドラッグストアなどで手軽に購入することができますが、場合によっては早めに受診した方がいいこともあります。最後に、早めの受診を検討すべき症状について解説します。
腸の不調が数日以上続くとき
整腸剤を飲んでも便秘や下痢が改善せず、数日以上続く場合は自己判断せずに医療機関を受診しましょう。胃腸炎や過敏性腸症候群、大腸がんなど別の病気が隠れている可能性もあります。
発熱や腹痛を伴うとき
整腸剤はあくまで腸内環境を整える薬であり、感染症や炎症を直接治すものではありません。熱が出たり強いお腹の痛みやひどい下痢を伴うときは、感染性胃腸炎の疑いもあるため早めに受診しましょう。
場合によっては抗生物質による治療や脱水症状に対して点滴治療が必要になることもあります。
血便が出たときなど、他の疾患の可能性があるとき
血便や黒い便が出る場合は、消化管からの出血が考えられ、緊急性の高い病気の可能性もあります。整腸剤で様子を見るのではなく、すぐに病院を受診してください。



