執筆者・監修者:薬剤師
「お薬はたくさん飲めば、早く治ると思っていた・・・」
「お薬を飲み過ぎると何故よくないの?」
そんなふうに考えている方も多いのではないでしょうか?
お薬は、正しく使えば症状の改善につながりますが、飲みすぎると身体に負担がかかり、思わぬ健康被害を引き起こすことも。特に自己判断での過剰摂取は、リスクが高まります。この記事では、お薬の飲み過ぎによる危険性や注意点について、薬剤師が解説します。
お薬の「飲み過ぎ」とは?
医薬品は適切な量と正しい飲み方で効果を発揮します。しかし、思うように症状が改善しないからといって、自己判断で量を増やしたり、飲む頻度を上げたりすることは大変危険です。お薬の「飲み過ぎ」とは、どのような状態を指すのでしょうか。
決められた用量・用法を超えて服用すること
お薬の「飲み過ぎ」とは、定められた用量・用法を超えて服用することを指します。例えば「1日3回」と指示されているお薬を「4回以上」服用したり、「1回1錠」の指示を「1回2錠」に増やしたりする行為です。
特に注意が必要なのは、同じ成分を含む別のお薬を知らずに併用してしまうケースです。たとえば、市販の総合感冒薬と処方された解熱鎮痛剤には、同じ成分(アセトアミノフェンなど)が含まれていることがあります。これらを同時に服用すると、気づかないうちに特定の成分の過剰摂取につながります。
また、「飲み合わせ」にも注意が必要です。お薬同士が影響し合うことで、体の中で薬が必要以上に強く効いてしまい、結果として“飲み過ぎ”のような状態になることがあります。
飲み過ぎがもたらす健康リスク
お薬を過剰に摂取することで、体にはさまざまな負担がかかります。その結果、本来の治療目的とは逆に、新たな健康被害を引き起こす可能性があります。どのようなリスクが潜んでいるのでしょうか。
肝臓や腎臓への負担
多くのお薬は肝臓で代謝(体内で起こる薬の化学変化のこと)され、腎臓から排泄(体から薬が除去されること)されます。お薬の飲み過ぎは、これらの臓器に過度の負担をかけることになります。特に解熱鎮痛剤の過剰摂取は、肝臓や腎臓への負担が大きいです。
例えば、風邪などで頭痛がある場合、処方薬と市販の鎮痛剤を併用すると、アセトアミノフェンやイブプロフェンといった成分の過剰摂取につながります。アセトアミノフェンの過剰摂取は重度の肝障害を、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の過剰摂取は腎機能障害を引き起こす危険性があります。
肝臓や腎臓の機能に不安がある方は、通常の用量でも注意が必要です。また高齢者は肝機能や腎機能が低下していることが多いため、特に注意が必要です。
薬物中毒・副作用の発現
お薬を過剰摂取すると、薬物中毒や重篤な副作用のリスクが高まります。症状としては、めまい、吐き気、嘔吐、腹痛、発疹、呼吸困難、意識障害などが現れることがあります。
特に危険なのは、睡眠薬や精神安定剤、鎮痛剤の過剰摂取です。これらは中枢神経系(脳と脊髄からなる神経系の中心部分)に作用するため、過剰摂取により呼吸抑制や意識レベルの低下を引き起こし、最悪の場合、命に関わる事態になることもあります。
また、お薬によっては治療域(治療に有効な量)と中毒域(過剰摂取となる用量)が近い「安全域の狭い薬」もあります。これらのお薬は少量の過剰摂取でも重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、特に厳密な服用管理が必要です。
眠気・ふらつきからの転倒事故
鼻炎、皮膚炎などのアレルギー症状に有効な抗ヒスタミン薬や、精神安定剤、筋弛緩剤(筋肉の過度の緊張、凝りを和らげる薬)などのお薬を過剰に摂取すると、強い眠気やふらつきを引き起こすことがあります。特に高齢者では転倒事故のリスクが高まります。
高齢者の転倒は骨折につながりやすく、骨折後の寝たきりや要介護状態への移行リスクを高めます。日本では高齢者の転倒による骨折が年間約20万件発生していると言われており、その一部はお薬の副作用による眠気やふらつきが原因と考えられています。
複数のお薬を服用している場合、眠気やふらつきなどの副作用が重なってしまう、いわゆるポリファーマシーという有害事象がおこることがあります。
特に高齢者では、お薬の代謝・排泄能力が低下しているため、通常量でも副作用が強く現れることがあり注意が必要です。
薬剤性肝障害・腎障害
お薬の過剰摂取や長期服用により、薬剤性の肝障害や腎障害を引き起こすことがあります。これらの障害は初期段階では自覚症状が乏しいため、気づいた時には重症化していることも少なくありません。
薬剤性肝障害の初期症状としては、倦怠感、食欲不振、嘔気などがありますが、これらは風邪などの症状と似ているため見過ごされやすいです。進行すると黄疸や腹水などの症状が現れます。
腎障害の場合も、初期には症状が現れにくく、進行すると浮腫、倦怠感、頻尿または乏尿などの症状が現れます。定期的な血液検査で肝機能・腎機能をチェックすることが重要です。
特に複数の医療機関から同じお薬を処方されている場合や、市販薬と処方薬を併用している場合は、知らず知らずのうちに過剰摂取になっていることがあるので注意が必要です。
慢性的なお薬の飲み過ぎによる影響
短期的な過剰摂取だけでなく、長期間にわたるお薬の不適切な使用も、身体に様々な問題を引き起こします。慢性的なお薬の飲み過ぎがもたらす影響について見ていきましょう。
薬物依存や常用量依存のリスク
鎮痛剤や睡眠薬、抗不安薬などの一部の薬剤は、長期間の使用により薬物依存を引き起こす可能性があります。特に注意が必要なのは、医師の処方どおりの用量であっても生じうる「常用量依存」です。
常用量依存の場合、お薬を減量または中止しようとすると離脱症状(禁断症状)が現れ、元の病気の症状が悪化したように感じることがあります。これにより「薬が必要だ」という誤った認識が強化され、さらに服用を続けるという悪循環に陥ることも少なくありません。
特に、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は依存性が知られており、長期使用を避けるべきとされています。これらのお薬を長期間服用している場合は、自己判断で急に中止せず、医師や薬剤師の指導のもとで徐々に減量することが重要です。
効果が薄れてさらに量が増える悪循環
お薬を長期間使用していると、同じ効果を得るために徐々に多くの量が必要になる「耐性」が形成されることがあります。これにより、効果を感じるために自己判断で服用量を増やしてしまうケースがあります。
例えば、鎮痛剤の場合、頭痛などの痛みに対して繰り返し使用していると、徐々に効果が弱まり、より多くの量や頻度で服用するようになります。薬剤の使用によって逆に症状が悪化し「薬物乱用頭痛」などの状態を招くことがあります。
また、睡眠薬の場合も同様に、長期使用により効果が薄れ、量を増やす傾向がありますが、これにより日中の眠気や認知機能の低下、転倒リスクの増加など、別の問題が生じることがあります。
適切な薬物治療は、定期的な効果判定と用量調整が重要です。効果が薄れてきたと感じたら、自己判断で量を増やすのではなく、医師や薬剤師に相談しましょう。
お薬を飲み過ぎてしまったら?
もし誤ってお薬を飲み過ぎてしまった場合、または飲み過ぎの症状が出ていると感じる場合はどうすればよいのでしょうか。適切な対応方法を知っておくことが重要です。
すみやかにかかりつけ薬剤師に相談を
お薬の飲み過ぎに気づいたら、まずはかかりつけ薬剤師や医師に速やかに相談しましょう。症状の程度によっては救急受診が必要なケースもあります。特に、以下のような症状がある場合は、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診するか救急車を呼ぶことを検討してください。
● 意識障害や強い眠気
● 呼吸困難
● 激しい嘔吐や腹痛
● けいれん
● 皮膚や白目が黄色く変色する(黄疸)
比較的軽度の場合でも、自己判断は危険です。お薬の種類や飲んだ量、体質などによって対応が異なります。
普段からお薬手帳を活用し、複数の医療機関で処方されたお薬や市販薬の情報を一元管理すると、重複投与や相互作用による危険を防ぐことに役立ちます。
お薬の適正使用は、自分の健康を守るための重要なステップです。不安や疑問があれば、自己判断せずに薬剤師に相談することが大切です。
薬剤師に相談する手段として、たとえばLINEの「つながる薬局」のサービスには、薬局の薬剤師にチャットで相談できる機能があります。つながる薬局を友だち追加した後にお好きな薬局をかかりつけ薬局として登録すると、お薬についての疑問や体調の変化、飲み合わせに関する不安などを、気軽に薬局の薬剤師に相談できます。
処方されたお薬が合わないと感じた時や副作用が心配な時も、専門家のアドバイスを受けることで安全に服薬を続けることができます。
また、複数の医療機関から処方されたお薬を一元管理する電子お薬手帳の機能もあるサービスです。この機能を活用し医師や薬剤師等にお薬の情報を共有することで、重複投与や相互作用のリスクを未然に防ぐことができます。
さらに、つながる薬局のサービスには薬局に処方箋を事前送信できる機能もあります。事前送信しておけば、薬局での待ち時間を短縮できるため忙しい方には特におすすめです。ぜひ活用をご検討ください。
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