執筆者・監修者:薬剤師
「高齢の親がたくさんお薬を飲んでいるけど、全部必要・・・?」
「勝手に飲む薬を減らしてもよいのかな?」
高齢者になると、複数の病気を抱えてたくさんのお薬を服用することがありますが、必要以上に多くのお薬を服用することは健康リスクを高める場合もあります。この記事では、ポリファーマシーの意味やリスク、家族や本人ができる対策、薬剤師のサポート方法をわかりやすく解説します。
ポリファーマシーとは?
ポリファーマシー(Polypharmacy)とは、単に「たくさんのお薬を飲んでいる状態」を指すわけではありません。複数のお薬を服用することで、お薬の飲み忘れが増えたり、副作用のリスクが高まったりするなど、何らかの問題が生じている状態を指します。
一般的には6種類以上のお薬を服用している場合に「ポリファーマシー」と考えられることが多いですが、お薬の数だけでなく、その人にとって不適切なお薬の組み合わせや量になっていないかどうかが重要です。
高齢になるほど複数の病気を抱えやすく、多くの医療機関を受診する機会が増えるため、高齢者に多く見られる問題です。
ポリファーマシーの原因
様々な要因で高齢者の方は多くのお薬を服用します。なぜポリファーマシーが起こるのか、その主な原因を理解しましょう。
複数の医療機関・薬局を利用
高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多く、内科、整形外科、眼科など複数の診療科や医療機関を受診することがあります。それぞれの医師が別々にお薬を処方するため、全体を把握する人がいないとお薬が増えていきます。
特に、それぞれの医療機関で処方された薬を別々の薬局で調剤してもらうと、お薬の重複や相互作用のチェックが不十分になりがちです。「かかりつけ薬局」を決めて一元管理することで、このリスクを減らすことができます。
処方カスケード
「処方カスケード」とは、あるお薬の副作用に対して新たなお薬が処方され、さらにそのお薬の副作用に対してまた別のお薬が処方される…という連鎖を指します。
例えば、痛み止めを服用したことで胃の不調が起き、その症状に対して胃薬が処方されます。さらに胃薬の副作用で便秘が生じれば便秘薬が処方される…というように、お薬が次々と増えていくのです。このような連鎖に気づかないと、不必要なお薬が増え続けることになります。
ポリファーマシーが引き起こすリスク
症状を抑えるために複数の薬を同時に飲むことも必要な場面はありますが、その一方でお薬の副作用やお薬同士の相互作用で健康に悪影響を与えるリスクも高まることがあります。特に高齢者はお薬の影響を受けやすく、ポリファーマシーによる弊害が現れやすいため注意が必要です。
副作用や薬の相互作用の増加
服用するお薬の数が増えるほど、副作用のリスクは高まります。一般に、5種類以上のお薬を服用すると副作用の発生率が大幅に上昇すると言われています。
また、複数のお薬を同時に服用すると、お薬同士が影響し合う「相互作用」も問題になります。あるお薬の効果が強まったり弱まったりするだけでなく、思わぬ副作用が現れることもあります。特に高齢者は腎機能や肝機能が低下していることが多く、お薬の代謝・排泄が遅れるため、相互作用のリスクがさらに高まります。
転倒やめまいなどの事故リスク
高齢者がよく服用するお薬の中には、めまいや眠気、ふらつきなどの副作用を引き起こすものが少なくありません。睡眠薬、抗不安薬、血圧を下げるお薬、糖尿病のお薬などは特に注意が必要です。
これらの副作用によって転倒リスクが高まり、骨折などの重大な事故につながる可能性があります。実際に、多くのお薬を服用している高齢者は転倒による骨折リスクが1.5〜2倍高いというデータもあります。
お薬の効果が弱まることや服薬の負担増
お薬の数が増えると、飲み間違いや飲み忘れが増加します。「朝・昼・晩と1日に何度もお薬を飲まなければならない」「食前・食後・就寝前など時間を守って服用する必要がある」といった複雑な服薬スケジュールは、特に高齢者にとって大きな負担となります。
この結果、服薬アドヒアランス(患者さんが処方されたお薬の意図を理解し服薬すること)が低下し、治療効果が十分に得られなくなることがあります。さらに、一部のお薬だけを自己判断で服用し、重要なお薬を飲み忘れるといった問題も起こりがちです。
認知機能や生活の質への影響
一部のお薬、特に抗コリン作用を持つお薬(一部の睡眠薬、抗うつ薬、過活動膀胱治療薬など)は、高齢者の認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。これらのお薬を服用することで記憶力や思考力の低下を引き起こし、それまで服用できていたお薬がわからなくなってしまうこともありえます。
また、多剤服用による副作用や服薬管理の負担は、日常生活の質(QOL)を大きく低下させます。「お薬を飲む時間に縛られる」「外出時にお薬の携帯が面倒」「副作用で趣味や活動を楽しめない」など、生活の質に関わる様々な問題が生じることがあります。
多剤服用を見直すポイント
ポリファーマシーの問題に気づいたら、どのように対処すればよいのでしょうか。お薬を自己判断で中止することは危険ですが、医療専門家と相談しながら適切に見直すことが大切です。
お薬手帳を活用し服用薬を整理
まずは現在服用しているすべてのお薬(処方薬だけでなく、市販薬やサプリメントも含む)を把握することが重要です。お薬手帳は複数の医療機関で処方されたお薬を一元管理するための有効なツールです。
お薬手帳に記録がない場合は、飲んでいるお薬をすべて袋ごと持参して薬剤師に相談するとよいでしょう。「ブラウンバッグ運動」と呼ばれるこの方法は、お薬の重複や相互作用を確認するのに役立ちます。
医師・薬剤師と定期的に確認
半年〜1年に一度は、服用しているお薬の必要性や用量の適切さについて、医師や薬剤師に相談することをおすすめします。「このお薬は今も必要ですか?」「減量や中止は可能ですか?」と遠慮なく質問してみましょう。
特に体調や生活環境が変化したとき(体重の増減、腎機能の低下、入院後など)は、お薬の見直しが必要になることがあります。症状が改善したのにお薬を漫然と飲み続けていないか、定期的なチェックが大切です。
同じ効果のお薬や重複しているお薬がないかチェック
同じような効果を持つお薬が重複して処方されていることがあります。例えば、複数の医療機関で別々の胃薬や痛み止めが処方されているケースなどです。
また、配合剤(複数の成分が1つの錠剤に含まれているお薬)と単剤(有効成分が1種類のお薬)の併用によって、知らず知らずのうちに同じ成分を重複して服用していることもあります。かかりつけ薬剤師に相談し、重複がないか確認してもらいましょう。
生活習慣改善でお薬の量を減らせる場合も
一部の生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)は、食事や運動などの生活習慣改善によってお薬の減量や中止が可能になることがあります。
例えば、減塩や適度な運動によって血圧が安定し、降圧薬の量を減らせるケースや、食事療法と体重管理によって糖尿病治療薬の一部が不要になるケースなどがあります。生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせることで、お薬の量を最小限に抑えられる可能性があります。
薬剤師に相談できること
ポリファーマシー対策において、薬剤師は重要な役割を果たします。薬の専門家として、多剤服用の問題解決をサポートする様々なサービスを提供しています。
服薬状況の整理や重複チェック
「どのお薬が何のために処方されているのかわからない」「似たようなお薬が多くて混乱する」という場合は、薬剤師に相談しましょう。薬剤師は患者さんの服薬状況を整理し、重複や不要なお薬がないかチェックしてくれます。
お薬手帳や、実際に服用しているお薬(市販薬やサプリメントを含む)を持参すると、より正確な確認ができます。
また、LINEの「つながる薬局」のサービスであれば、薬局の薬剤師に健康やお薬について相談ができるチャット機能があるため、薬局へ行く前に事前相談をすることが可能です。
つながる薬局は、薬局への処方箋送信から健康・お薬相談、お薬手帳までLINEひとつでご利用いただけるサービスです!
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服薬の優先順位や減薬の相談
「たくさんのお薬を飲むのが大変」「全部必要なのか疑問」という場合、薬剤師は服薬の優先順位を整理し、医師と連携して減薬(ポリファーマシー対策)を検討することができます。
特に「ここ数年、処方内容が変わっていない」「症状が改善しているのに同じお薬を飲み続けている」場合は、見直しの余地があるかもしれません。薬剤師は患者さんの状態に応じて医師に処方提案を行うことができます。
副作用や相互作用のリスク説明
多剤服用による副作用や相互作用のリスクについて、薬剤師は専門的な立場から説明してくれます。「めまいや眠気が増した」「足がむくむようになった」など、お薬の副作用と思われる症状があれば、遠慮なく相談しましょう。
また、新たなお薬が処方された際には、既存のお薬との相互作用がないか確認してもらうことも重要です。
家族への服薬管理アドバイス
高齢の家族の服薬管理に悩んでいる方も、薬剤師に相談することで様々なサポートが受けられます。お薬の一包化(服用ごとに1回分ずつまとめる)や服薬カレンダーの活用方法、飲み忘れ防止のコツなど、状況に応じた管理方法を提案してもらえます。
また「親がお薬を飲んでいない」「お薬を間違えて飲んでいる」といった問題にも、薬剤師は適切なアドバイスをしてくれます。一人で抱え込まず、服薬支援ツールの紹介や訪問服薬指導の相談など、専門家のサポートを受けることが大切です。
特に認知機能の低下がある高齢者の場合は、服薬管理が複雑になりがちです。
たとえばLINEの「つながる薬局」というサービスには、電子お薬手帳が備えられており、そのお薬手帳にはお薬を飲むタイミングを設定しておくとLINEに通知が届く「服用スケジュール」という機能があります。
この服用スケジュールを使うと、お薬を飲む時間に「お薬の時間です」と通知が届くので飲み忘れの防止に役立ちます。安心して医療を受ける環境づくりのサポートとして、ご利用を検討してみてはいかがでしょうか。
ポリファーマシー(多剤服用により、飲み忘れや副作用のリスクが高まるなど何らかの問題が生じている状態)は、特に高齢者において重要な医療課題となっています。お薬は病気の治療や症状の緩和に欠かせないものですが、必要以上に多くのお薬を服用することで、かえって健康リスクが高まることがあります。
大切なのは、自己判断でお薬を中止するのではなく、医師や薬剤師と相談しながら定期的に服薬内容を見直すことです。「このお薬は本当に必要か」「より少ないお薬で効果的な治療ができないか」という視点を持ち、適切な薬物療法を目指しましょう。
薬剤師はお薬の専門家として、多剤服用に伴う問題解決をサポートする重要なパートナーです。お薬手帳を活用し、かかりつけ薬剤師・薬局を決めて相談することで、安全で効果的な薬物療法を受けることができます。
なお、LINEの「つながる薬局」のサービスでは、友だち登録後にお好きな薬局をかかりつけ薬局として登録すると、お薬に関するさまざまな不安や疑問に対して、薬局の薬剤師が丁寧にサポートしてくれます。薬剤師へ気軽に健康やお薬について相談ができる機能の他にも、薬局での待ち時間を短縮できる処方箋送信機能があります。ぜひサービスの利用をご検討ください。
高齢の家族の服薬に不安を感じたら、ぜひ「つながる薬局検索サイト」から、お近くの薬局を探してご相談ください。一人ひとりに合った最適な服薬支援で、安心して医療を受けられる環境づくりをお手伝いします。



