執筆者・監修者:薬剤師
「抗生剤なら風邪もインフルエンザも治ると思っていた」
実はこうしたイメージを持つ方は少なくありません。抗生剤は細菌感染症の治療に有効なお薬ですが、すべての病気に効くわけではありません。正しく使わないと効果が出ないだけでなく、副作用や耐性菌(抗生剤が効かない、もしくは効きにくい細菌)のリスクが高まることもあります。
この記事では、抗生剤の基本や使用時の注意点、薬剤師に相談できるポイントをわかりやすく解説します。
抗生剤とは?
抗生剤とは、細菌による感染症を治療するお薬です。細菌を壊したり、細菌の増殖を抑えたりする作用があります。まず抗生剤がどのようなお薬なのかについて解説します。
細菌感染症を治療する薬
抗生剤とは、細菌によって起きる感染症を治す薬です。例えば、以下のような症状・病気で使用されることがあります。
● 扁桃炎、咽頭炎、急性気管支炎
● 急性中耳炎、副鼻腔炎
● 膀胱炎、腎盂腎炎(じんうじんえん)
● ニキビやとびひなど皮膚の化膿
細菌が体内で増えると、発熱や痛み、腫れなどの症状が出ます。抗生剤は細菌を退治したり増殖を抑えたりして症状を改善するために使われます。
抗生剤には飲み薬だけでなく、点滴薬や塗り薬、目薬、点耳薬などさまざまなタイプがあります。抗生剤は多くの種類があり、感染部位や菌の種類によって適切に使い分けることが大切です。医師の診断のもと、適切なお薬が選ばれます。
ウイルスには効果がない
抗生剤は細菌の構造や細菌が増殖していく仕組みに作用して効果を発揮するため、ウイルスには効果がありません。薬局の窓口では、「風邪をひいたので抗生剤をもらいたかったのに、処方してもらえなかった」と患者さんから言われることは珍しくありません。
「抗生剤を飲めば風邪が早く治る」と思っている患者様も多い印象ですが、実は風邪の原因の80%〜90%はウイルス感染であり、ウイルス感染による風邪には抗生剤は効きません。
ウイルス感染に対して抗生剤を飲んでも治りが早くなることはなく、副作用のリスクや耐性菌を増やす原因になるため、症状や採血などの検査結果から細菌感染が強く疑われる場合にのみ、抗生剤が処方されます。
種類ごとに作用の仕方や効果範囲が異なる
抗生剤にはたくさんの種類があり、体のどこに感染があるのか、原因菌としてどんな細菌が疑われるのかによって使うお薬が変わります。
下記に医療の現場でよく使用される抗生剤の種類を挙げました。
● ペニシリン系
● セフェム系
● ニューキノロン系
● テトラサイクリン系
● マクロライド系
抗生剤には大きく分けて菌を直接死滅させる抗生剤(殺菌性)と菌の増殖を抑える抗生剤(静菌性)があります。
殺菌性の抗生剤(ペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系)は増殖中の細菌そのものを破壊する作用があります。一方で、静菌性の抗生剤(テトラサイクリン系、マクロライド系)は細菌の増殖スピードを抑える作用があり、最終的には人間のもつ免疫力で細菌をやっつけることを目指します。
どちらが優れているというわけではなく、原因菌や感染部位、症状の程度、患者さんの腎機能・肝機能などを考慮して選択されます。抗生剤の選択は医師が行うため、処方されたものは必ず指示通りの用法・用量で使いましょう。
抗生剤の正しい使い方
抗生剤をしっかりと効かせるためには、正しい使い方で使用することが重要です。ここからは、抗生剤の正しい使い方を解説します。
医師の指示通りの量・期間で服用
抗生剤は「症状を抑える薬」ではなく、体の中の細菌を減らして治すお薬です。そのため、症状が改善したからといって自己判断で量を減らしたり服用を中断したりすると、菌が生き残ってしまい再び悪化することがあります。
● 飲み忘れる
● 勝手に回数を変更する
● 使用するタイミングを守らない
上記の行動は、効果が弱まったり副作用のリスクを高める原因になるため気をつけましょう。
自己判断で中断や増量をしない
症状が軽くなってきても、まだ体内には細菌が残っている可能性があります。飲むのを途中でやめてしまうと、体内に残っていた細菌が再び増えて、症状が再燃することがあります。
「早く治したいから」と勝手に増量するケースも見られますが、これは大変危険です。胃腸障害やアレルギー症状などの副作用が起こりやすくなります。抗生剤に限らず、お薬は多く飲めばよく効くわけではありません。指示された量を守って服用しましょう。
処方された分は必ず最後まで飲み切る
抗生剤は、症状がなくなっても処方された日数分をしっかり飲み切ることが大切です。途中でやめると、下記のようなリスクがあります。
● 菌が完全に死滅せず治りが遅れる
● 症状がぶり返す
● 耐性菌が生まれやすくなる
自己判断で「余った薬を次回のために取っておく」という行為もしてはいけません。感染の種類が違えば効かないことがあり、また、耐性菌のリスクも高まります。抗生剤はひどい下痢やじんましんなどの副作用がない限りは、処方された分を最後まで飲み切るようにしましょう。
抗生剤の副作用と注意点
抗生剤は細菌感染症を治すお薬ですが、副作用もあります。ここからは、抗生剤の副作用と使用時の注意点について解説します。
下痢や吐き気などの消化器症状
抗生剤の代表的な副作用として、下痢や吐き気などの消化器症状があります。抗生剤は感染症の原因となっている細菌に作用すると同時に、腸内細菌にも作用するため、抗生剤の服用により腸内細菌のバランスが乱れてしまい、消化器症状が起こります。
軽い下痢やお腹の張りは通常問題ありませんが、以下の症状が出た場合は早めに医師や薬剤師に相談しましょう。
● 水のような下痢が続く
● 水分もとれないほど吐き気がひどい
● 血便が出る
● 脱水症状がある
抗生剤の服用による消化器症状が心配な場合は、あらかじめ整腸剤と一緒に服用するという対策もできるため、受診の際に相談してみるとよいでしょう。
アレルギー反応や発疹
抗生剤は体質により、アレルギー反応や発疹といった副作用が出る場合もあります。体質に合わない抗生剤を服用したときに起こる症状としては下記のものがあります。
● じんましん
● 発疹
● かゆみ
● 息苦しさ
● 唇やまぶたの腫れ
特に、呼吸困難や意識がぼんやりするなどの症状は、頻度は少ないものの重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーの可能性があります。すぐに救急を受診してください。
これまでに服用した抗生剤で発疹などのアレルギー症状が出た経験がある場合は、その系統の抗生剤の使用を控えることもあります。お薬手帳などにお薬の名前や服用した時期、副作用の症状などを記録しておき、受診の際に伝えておくと安心です。
長期使用で耐性菌が出現するリスク
抗生剤を飲み切らずに中断したり、指示された服用回数を自己判断で減らしたりすると、抗生剤が効きにくい耐性菌が出現するリスクがあります。現在、耐性菌の増加は世界的にも大きな問題となっています。
耐性菌が増えると、通常なら抗生剤で治せる感染症でも治療が難しくなって重症化のリスクが高まり、まれに命に関わる場合もあります。耐性菌の拡大を防ぐためには、一人ひとりが抗生剤を適切に使用するとともに、ウイルスによる感染症などの場合に不必要に抗生剤を使用しないことも重要です。
よくある誤解
ここからは、抗生剤に関して患者さんが抱いているよくある誤解を紹介します。
風邪やインフルエンザに効くと思っている
先述のとおり、風邪の原因の80〜90%はウイルス感染です。インフルエンザもウイルスによる感染症の一種です。抗生剤はウイルスによる感染症には効果がありません。
風邪やインフルエンザをきっかけに肺炎や中耳炎、扁桃炎を起こしている場合などは抗生剤を使用する場合もありますが、風邪の治療に抗生剤は必要ないケースがほとんどです。抗生剤を出してもらえなくて不満という声を聞くこともありますが、医師が抗生剤を処方しないのは必要ないと判断しているためなので、医師の指示に従いましょう。
症状が軽くなったらすぐやめてよい
症状が軽くなったので、自己判断で服用を中止するケースも見られます。
症状が軽くなったのは細菌が減ってきた途中の段階であり、まだ体内には細菌が残っています。途中でやめると再発しやすく、耐性菌を増やす原因にもなるため、処方された抗生剤は指示通りに最後まで服用するようにしましょう。
市販薬と組み合わせても安全
抗生剤は市販薬と併用できることが多いですが、すべての場合で安全とは限りません。
● 解熱鎮痛剤の種類によっては相性が悪いことがある
● 胃薬やサプリメントが吸収を邪魔することがある
その他、アルコールと併用すると副作用が強く出る抗生剤もあるので気をつけましょう。
抗生剤と市販薬やサプリメント等を併用する場合は、上記の点に注意してお薬を選ぶことが大切です。抗生剤を服用中に市販薬を併用する際は、自己判断せずに薬剤師に相談しましょう。
薬剤師に相談できること
薬剤師はお薬の専門家として、抗生剤の服用に関する相談にも対応しています。抗生剤の服用中に不安や気になることがある場合は、気軽に相談してみましょう。
副作用が出た場合の対処法
下痢が続く、気持ち悪い、発疹が出たといった副作用が疑われる症状が出たとき、すぐ病院に行くべきか、様子を見てもよいか不安になる方も多いと思います。
薬局では、
● 副作用がどれくらい重いか
● 抗生剤の使用を続けてよいか中止すべきか
● 病院を受診すべきか
といった判断の目安をお伝えできます。
他の薬との飲み合わせや服薬スケジュールの相談
抗生剤には他の薬との飲み合わせや食事のタイミングが重要なものもあります。
● 他の薬を併用している
● サプリや整腸剤を飲んでいる
● 食事が不規則で飲むタイミングが不安
● 飲み忘れやすい
こんなときは薬剤師に相談してください。生活スタイルに合わせた服薬方法や、飲み忘れの対処方法もアドバイスできます。
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