執筆者・監修者:薬剤師
「お弁当は傷んでいないかな?」
「カレーの作り置きを食べても大丈夫?」
ジメジメとした湿気と、気温の上昇が気になる梅雨の季節。日々の食事の衛生管理に不安を抱える方も多いのではないでしょうか?
気温と湿度が高くなる梅雨の時期は、食中毒を引き起こす細菌が活発になりやすく、1年の中で特に6月は細菌性の食中毒の発生件数が最も多くなる傾向があります。
そこで本記事では、梅雨の時期に急増する食中毒の原因となる細菌の種類や、家庭ですぐに実践できる「食中毒予防の3原則」について分かりやすく解説します。万が一症状が出た場合の正しい対処法についても紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
なぜ梅雨から夏にかけて食中毒が急増するのか?
梅雨から夏にかけての時期は、1年の中でも食中毒が起きやすい季節です。「なんとなく食べ物が傷みやすい季節」というイメージはあっても、その理由を詳しく知っている方は少ないかもしれません。
まずは、この時期に食中毒が急増するメカニズムを整理しておきましょう。
6月は細菌性食中毒の発生が増えてくる時期
食中毒全体の発生件数は、ノロウイルスが猛威を振るう冬季(12〜2月)にピークを迎えます。
一方、細菌が原因の食中毒に限れば、6月〜10月の夏場に集中する傾向があります。梅雨の時期はその入り口にあたり、細菌性食中毒のリスクが急速に高まる時期といえるでしょう。
細菌が活発に増殖する「高温多湿」な環境が原因
梅雨に細菌性の食中毒のリスクが高まるのは、高温多湿な環境が原因です。
食中毒を引き起こす細菌の多くは、30〜40℃程度の温度帯と高い湿度の環境を好みます。梅雨の時期は気温が30℃前後になる日も増え、湿度も70〜80%になることが珍しくありません。
細菌が増殖しやすい条件がそろうと、食品中で菌が急速に増殖し、食中毒を引き起こします。
梅雨に注意すべき代表的な細菌と発生しやすい食品
食中毒を引き起こす細菌にはさまざまな種類があり、それぞれ潜みやすい食品や感染経路が異なります。梅雨の時期に特に注意すべき代表的な細菌を確認しておきましょう。
カンピロバクター
カンピロバクターは、鶏肉をはじめとする食肉に広く存在する細菌で、日本における食中毒の原因菌としてトップクラスの件数を占めています。
特に問題となるのが、鶏の刺身(鶏わさ・鶏たたき)や、加熱が不十分な鶏肉料理です。鶏肉を調理する際は必ず中心部までしっかり加熱し、生肉を触った手や調理器具はすぐに洗浄・消毒しましょう。
サルモネラ属菌
サルモネラ属菌は、生の鶏肉や鶏卵に存在することがある細菌です。
卵かけご飯や自家製マヨネーズのように生卵を使う料理は、特に注意が必要です。卵を生で食べるときは新鮮で殻にひびがないものを使うようにしましょう。卵を割ったらすぐに使用し、食べる際は十分に加熱することも大切です。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は、人の皮膚や鼻・口の粘膜などに常在している細菌です。おにぎりやお弁当のおかずなどを素手で触ることで、食品に菌が移ってしまいます。
この菌が増殖する際に産生する毒素は熱に強く、一度汚染された食品は加熱しても毒素が残ってしまう点が大きな特徴です。
食品を扱う前には丁寧に手洗いを行い、使い捨て手袋を活用することが有効な対策になります。常温で長い時間放置された食品を食べないようにすることも大切です。
ウエルシュ菌
ウエルシュ菌は「給食病」とも呼ばれ、カレーやシチュー、味噌汁などの大鍋料理・作り置き料理で増殖しやすい細菌です。酸素が少ない環境を好む性質があります。
加熱に非常に強い芽胞(極めて耐久性の高い細胞構造)を作るため、通常の加熱調理では死滅しません。作り置きのカレーや汁物は、鍋ごと常温で放置せず、小分けにして素早く冷やしてから冷蔵・冷凍保存することが重要です。
腸管出血性大腸菌(O157)
腸管出血性大腸菌(O157)は、牛などの腸内に存在する細菌です。少量の菌でも重篤な症状を引き起こす可能性があります。
特に危険なのが、加熱が不十分なひき肉料理です。ハンバーグやメンチカツなど、ひき肉を使った料理は表面だけでなく中心部まで火が通るように、しっかり加熱するようにしましょう。
重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、命にかかわることもあるため、特に小さなお子さんや高齢者のいるご家庭では注意が必要です。
細菌以外が原因で起こる食中毒
食中毒の原因は細菌だけではありません。
ノロウイルスは冬に多く発生しますが、気温が上がる梅雨の時期にも発生することがあります。その原因として、夏場は暑さによって体力を消耗し、免疫力が低下しやすいことが考えられます。
また、サバやサンマなどの魚介類に寄生する「アニサキス」による食中毒も年間を通して発生しており、注意が必要です。アニサキスは生の魚介類に存在し、十分に加熱する(中心温度60℃で1分以上)か、−20℃以下で24時間以上冷凍することで死滅します。
魚介類を生で食べる際は新鮮なうちに調理するようにし、鮮度が落ちてしまった場合は十分に加熱調理してから食べるようにしましょう。
家庭で今すぐ実践できる!食中毒予防の「三原則」
食中毒は、正しい知識と日々のちょっとした習慣で、そのほとんどを防げます。
厚生労働省も推奨する「菌をつけない・ふやさない・やっつける」の三原則は、特別な道具がなくても今日から実践できる方法ばかりです。それぞれのポイントを確認してみましょう。
原則1:菌を「つけない」(清潔・洗浄)
菌を食品につけないためには、まず手洗いの徹底が基本です。調理前・食事前はもちろん、生肉や生魚を触った後は必ず石けんを使って20秒以上しっかり洗いましょう。
また、肉や魚のパックからはドリップと呼ばれる汁が漏れることがあります。買い物をして家に持ち帰る際は、ビニール袋に入れて他の食品にドリップが付着しないようにしましょう。
手には食中毒の原因となる細菌が付着していることがあるため、おにぎりやサンドイッチなどを作る際は手袋を使用し、食品を直接手で触らないようにすることも大切です。
原則2:菌を「ふやさない」(迅速・冷却)
細菌は常温の環境で急速に増殖するため、調理した食品はできるだけ早く食べきることが理想です。食べきれなかった場合は、粗熱をとってから小分けにして冷蔵・冷凍保存しましょう。
お弁当を持ち歩く際は、保冷剤と保冷バッグをセットで活用し、できる限り涼しい場所で保管することが重要です。お弁当に熱々のままおかずを詰めると蒸気によりお弁当内の水分が増え、細菌が増殖しやすい環境になるため、おかずはしっかりと冷ましてから詰めるようにしましょう。
原則3:菌を「やっつける」(加熱・殺菌)
ほとんどの食中毒の原因菌は、十分な加熱によって死滅させることができます。調理の際は食品の中心部が75℃以上になるよう、1分以上しっかり加熱することが基本です。
なお、ノロウイルスの場合はより高い温度が必要で、中心部が85〜90℃で90秒以上の加熱が推奨されています。
作り置きの料理を食べる前は必ず再加熱し、中心部まで十分に温めてから食べるようにしましょう。まな板や包丁などの調理器具も、使用後に熱湯消毒や塩素系漂白剤で消毒する習慣をつけると、より安全に食事の準備ができます。
食中毒の症状が出た場合の正しい対処法
食中毒かもしれないと感じたとき、症状を悪化させないためには、正しい知識に基づいた初期対応が非常に重要です。慌てず適切に行動できるよう、あらかじめ確認しておきましょう。
食中毒の気になる症状と潜伏期間
食中毒の主な症状は、腹痛・下痢・嘔吐・発熱などです。原因となる細菌によって症状が現れるまでの時間(潜伏期間)が異なります。
| 原因菌 | 潜伏期間 | 主な症状 |
| カンピロバクター | 平均2~3日 | 腹痛、下痢、発熱、頭痛、嘔吐 |
| サルモネラ属菌 | 12~48時間 | 腹痛、下痢、発熱、嘔吐 |
| 黄色ブドウ球菌 | 1~5時間(平均3時間程度) | 突然の吐き気・嘔吐、腹痛、下痢 |
| ウエルシュ菌 | 6~18時間 | 下痢、腹痛 |
| 腸管出血性大腸菌 | 3~8日 | 腹痛、下痢(水様便その後血便になることあり) |
潜伏期間が数日に及ぶ場合もあるため、「最近食べたもので怪しいものはなかったか」を振り返ることが診断の手がかりになります。
自己判断は危険!早めに医療機関を受診
下痢や嘔吐が続く場合、「そのうち治る」と自己判断して市販の下痢止めを使うことは控えましょう。
食中毒の場合、下痢は体内の菌や毒素を排出しようとする防御反応であり、むやみに止めると症状が長引いたり、悪化したりする場合があります。
特に、血便や高熱、水分が摂れない、息苦しいなどの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
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水分補給の徹底で脱水症状の予防
食中毒になってしまった場合は、無理に食事を摂らないようにして腸を休めつつ、脱水にならないようにこまめな水分補給を心がけましょう。症状がひどいときは腸への負担が少ない白湯を少しずつ飲むのがおすすめです。
下痢や嘔吐が続くと、水分だけでなくナトリウムやカリウムなどの電解質も失われるので、少し症状が落ち着いてきたら経口補水液やスポーツドリンクなどで水分だけでなく、失われた電解質も補うようにしましょう。
まとめ:正しい予防策で梅雨の食中毒リスクを減らそう
梅雨の時期は、高温多湿な環境が細菌の増殖を後押しし、細菌性食中毒のリスクが高まります。「つけない・ふやさない・やっつける」の三原則を日々の料理に取り入れることが、最も有効な対策です。
万が一食中毒が疑われる症状が出た場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診するようにしましょう。療養中にお薬の飲み方や体調について不安がある場合は、薬局を活用して継続的に相談することも大切です。
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執筆者:Rika
資格:薬剤師
経歴:大学卒業後、調剤薬局勤務(7年)。現在は慢性期病院勤務。
5歳と0歳の男の子を育てているママ薬剤師です。一般の方にもわかりやすい記事の執筆を心がけています。精神科病院でのパート勤務のかたわら、東洋医学を学んで不妊治療を乗り越えた経験を生かして、妊娠に向けた体づくりや不妊治療についての情報発信にも取り組んでいます。




