執筆者・監修者:薬剤師
薬剤師の人数は全国で一律に不足しているわけではありません。しかし、地域や業態による偏在、採用競争、勤務条件のミスマッチにより、必要な人員を確保できない薬局があります。
そのような中で、以下のような悩みを抱えている薬局経営者もいるのではないでしょうか。
「薬剤師を募集しても、なかなか応募が集まらない」
「人手不足によって、患者さんの待ち時間が長くなっている」
「薬剤師以外のスタッフへ、どこまで業務を任せてよい?」
本記事では、薬局で薬剤師を確保しにくい理由と、人手不足が患者さんや現場へ与える影響を解説します。調剤機器やICTによる業務効率化、厚生労働省通知を踏まえたタスクシェア、採用情報の発信方法も取り上げます。
最後まで読めば、薬剤師の採用だけに頼らず、限られた人員で安全に薬局を運営するための改善策を整理できるでしょう。
1.なぜ薬局で薬剤師が不足?深刻化する理由とは
薬局の薬剤師不足は、資格保有者の総数だけでは判断できません。勤務先や地域の偏在、雇用条件とのミスマッチが重なることで、必要な人数を配置できない薬局もあります。
本章では、大手チェーンとの採用競争、地域による人材確保の差、潜在薬剤師が現場復帰しにくい背景について解説します。
大手チェーンとの採用競争が激化している
薬局が薬剤師を確保しにくい理由の一つは、大手ドラッグストアやチェーン薬局との採用競争です。大手企業は採用予算や知名度を生かし、求職者との接点を広く確保できます。
給与水準が大手ほど高いとは限りませんが、福利厚生や研修制度、休暇制度、キャリアコースが整っている企業は、働く環境を求職者へ伝えやすい傾向があります。
そのため、知名度や制度面で比較されやすい小規模薬局では、応募者の確保が難しくなる場合があるのです。
地方ほど人材を確保しにくい
薬剤師の確保状況には地域差があり、人口規模の小さい地域や交通の便が限られる地域では、採用候補者を集めにくい場合があります。
厚生労働省では、地域や業態ごとの状況を把握するため、薬剤師偏在指標や薬剤師確保計画ガイドラインを示しています。都道府県だけでなく、二次医療圏ごとの偏在も考慮する仕組みです。
※参考:厚生労働省「薬剤師確保対策」
地方では、給与だけでなく通勤手段や住居、家族の生活環境も就職先を選ぶ要素になります。勤務条件だけでは解消しにくい地域特有の事情が、人材確保を難しくする要因になっています。
潜在薬剤師がいても現場復帰につながりにくい
薬剤師免許を持ちながら薬剤師として就業していない人がいても、すぐに現場の人手不足解消へつながるとは限りません。
離職の背景には、育児や介護、家族の転居、健康上の事情などがあります。復職を希望していても、勤務時間や勤務地の条件が合わず、就業に至らない場合があります。
また、長期間現場を離れている場合は、調剤報酬や医薬品、電子薬歴などの変化に不安を感じるケースもあるでしょう。資格保有者数と、実際に薬局で勤務できる人材数には差がある点が、薬剤師不足の一因です。
2.薬剤師不足が薬局に与える影響
薬剤師不足が続くと、既存スタッフの負担が増えるだけでなく、患者さんの待ち時間や医薬品へのアクセスにも影響が及びます。業務量に対して人員が不足している状態を放置すれば、必要な患者さん対応の時間も確保しにくくなるでしょう。
本章では、薬剤師不足が患者さんの利便性、医薬品へのアクセス、現場の負担、患者さん対応の質へ与える影響について解説します。
患者さんの待ち時間が長くなりやすい
勤務する薬剤師が少ないと、処方箋受付から薬剤交付までの各工程を限られた人数で担当するため、患者さんの待ち時間が長くなります。
特に、一包化や粉薬、水剤、疑義照会が必要な処方箋では、通常より調剤に時間を要します。急な欠勤が発生した場合には、窓口対応や電話対応まで残った薬剤師へ集中する可能性もあるでしょう。
待ち時間が長くなると、体調が優れない患者さんや子どもを連れた保護者の負担が増えます。混雑が常態化すれば、薬局の利用しやすさや満足度にも影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
医薬品へのアクセスに影響する
薬剤師不足は、地域によっては患者さんが必要なお薬を受け取る環境にも影響します。
人員を確保できず、開局時間の短縮や営業日の削減が生じると、利用できる薬局の選択肢が少なくなります。公共交通機関が限られる地域では、別の薬局へ移動するだけでも患者さんの負担が大きくなるでしょう。
高齢者や在宅療養中の患者さんでは、お薬を受け取れる場所や時間が限られることで、通院や受け取りの負担がさらに増す場合があります。休日や夜間の地域医療体制にも、人員不足の影響が及ぶ可能性があります。
現場の薬剤師に業務負担が集中する
薬剤師不足が続くと、調剤や監査、服薬指導、薬剤服用歴の記録、在庫管理などの業務が、限られた薬剤師へ集中します。
管理薬剤師は、通常業務に加えて勤務調整や行政対応、採用関連の業務まで担うケースもあり、負担がさらに大きくなる場合もあるでしょう。
一人あたりの業務量が増えることで、休憩や有給休暇を取りにくくなり、残業や休日出勤が増える可能性もあります。負担が長期間続けば、離職によって人員不足がさらに深刻化する悪循環につながるおそれがあります。
患者対応の質を維持しにくくなる
薬剤師不足によって一人あたりの業務量が増えると、患者さん一人ひとりへ十分な時間をかけにくくなります。
処方箋処理や監査、薬剤服用歴の記録などに追われると、服薬状況や副作用が疑われる症状、生活上の困りごとを詳しく聞き取る時間が不足する場合があります。服薬指導が必要最低限の説明に偏り、患者さんから相談を受ける時間も確保しにくくなるでしょう。
さらに、服薬期間中のフォローアップや処方医への情報提供、在宅訪問など、継続的な対人業務へ取り組む余力も減少します。薬剤師不足は、日々の調剤業務だけでなく、患者さんへの継続的な薬学的支援にも影響を及ぼす可能性があります。
3.薬局が取り組むべき薬剤師の人手不足対策
薬剤師不足への対策は、求人を出し続けるだけでは不十分です。業務工程と役割分担を見直したうえで、自薬局で働く魅力を求職者へ伝える必要があります。
本章では、調剤機器やICTによる業務効率化、適切なタスクシェア、ウェブサイトやSNSを活用した採用情報の発信について解説します。
調剤機器やICTツールの導入による業務効率化
人手不足へ対応するには、薬学的判断を必要としない作業や二重入力が生じている工程を整理し、機器やICTで効率化できる部分を見直すことが重要です。
自動錠剤分包機や散薬監査システム、調剤監査支援システムは、調製や確認に伴う作業負担の軽減に活用できます。在庫管理システムも、発注や使用期限、不動在庫の管理に役立つでしょう。
服薬フォローも、ICTツールを活用することで、業務効率化を図れる業務の一つです。例えば、メッセージツール等を活用すれば、患者さんごとの状況に応じた服薬フォローを継続しながら負担を軽減できます。
「つながる薬局」では、LINEを通じた処方箋送信や電子お薬手帳、服薬フォローなどを利用できます。服薬フォローの予約送信や文章テンプレートを活用すれば、メッセージ作成や送信にかかる作業負担も軽減できます。
導入前後の作業時間を比較し、確保した時間を服薬指導や相談対応へ振り向けましょう。
適切なタスクシェアの実践
タスクシェアでは、薬剤師の指示の下、薬学的判断を必要としない機械的な作業を、一定の条件を満たしたうえで薬剤師以外のスタッフへ分担します。
厚生労働省の2019年4月通知では、薬剤師の目が届く範囲で行われ、判断を加える余地に乏しい作業について、薬剤師以外のスタッフが実施できると示されています。
主な役割分担の例は、以下のとおりです。
| 薬剤師以外のスタッフが行える作業の例 | 薬剤師が行う業務 |
| PTPシートなど包装された医薬品を必要量取りそろえる | 処方監査や疑義照会 |
| 一包化した薬剤の数量を監査前に確認する | 薬学的判断を伴う調剤 |
| 納品された医薬品を調剤室の棚へ納める | 調剤後の最終確認 |
| 書類整理など調剤に該当しない事務作業 | 服薬指導や薬学的管理 |
一方、散剤や水剤、軟膏剤などを薬剤師以外のスタッフが直接計量・混合する行為は認められていません。
薬局内では作業手順書を整備し、担当するスタッフへ必要な研修を実施しましょう。誰が、どの条件で、どの作業を行えるかを明確にし、最終確認は薬剤師が行うことが重要です。
自社サイトやSNSを活用して薬局の魅力を発信
採用ページやSNSでは、求人票だけでは伝わらない職場の雰囲気や働き方を具体的に発信することが重要です。
採用ページには、給与や勤務時間、休日だけでなく、以下の情報も掲載すると入職後の働き方をイメージしやすくなります。
- 一日の業務の流れ
- 処方箋枚数や人員体制
- 研修・教育制度
- 在宅医療や地域活動への取り組み
- 休暇の取得状況や働き方
SNSでは、スタッフへのインタビューや研修風景、業務改善の取り組みなどを発信できます。
患者さんやスタッフが写る場合は、事前に掲載への同意を得たうえで、個人情報やお薬に関する情報が映り込まないよう注意しましょう。実際の勤務環境を具体的に伝えることで、入職後のミスマッチ防止にもつながります。
4.まとめ
薬剤師不足は、資格保有者の総数だけでなく、地域や業態の偏在、採用競争、勤務条件のミスマッチによって生じます。人員不足が続けば、患者さんの待ち時間や医薬品へのアクセス、現場の業務負担に影響が及ぶ可能性があります。
対策では、調剤機器やICTによって業務工程を見直し、薬学的判断を必要としない作業を適切に分担することが重要です。タスクシェアでは、薬剤師の指示と最終確認を前提として、スタッフごとの担当範囲を明確にする必要があります。
採用ページやSNSでも職場の実情と魅力を具体的に伝え、採用と定着、業務効率化を並行して進めましょう。

執筆者:佐藤 恒一
資格:薬剤師
経歴:総合病院門前薬局、精神科クリニック門前薬局にて勤務。調剤業務・服薬指導を経験後、薬局チェーン本部のDI(医薬情報)部門に所属し、医薬品情報提供や安全性対応に従事。現在は複数薬局の運営を担い、現場業務の効率化、人材育成、収益改善、地域医療への対応など、薬局経営に関わる幅広い業務に携わる。
薬局経営や薬剤師業務は、制度改定や地域医療の変化により、年々複雑さを増しています。執筆では、薬局経営者や薬局従事者が実務に活かしやすいよう、制度や業務課題を具体的に整理し、現場目線でわかりやすく伝えることを心掛けています。最新の調剤報酬改定や薬局経営の動向にも関心を持ち、日々情報収集を続けています。

監修者:岸 敦史
資格:薬剤師
経歴:総合病院前の調剤薬局にて勤務後、循環器病院での病棟勤務を経て、調剤チェーンにて薬局長や担当エリア教育担当、ブロック長(マネージャー)を経験。その後、ファーマシフトにてセールスをメインとして活動後、現在はマーケティングを担当しながら、調剤報酬の内容などの社内周知等を実施。


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