健康サポート薬局は、2016年に厚生労働省が制度化した新しい薬局の形態です。地域住民の健康維持・増進を支援する、これからの時代に求められる薬局として注目されています。
しかし、以下のようにお考えの方もいらっしゃるでしょう。
「健康サポート薬局って具体的に何をするの?」
「健康サポート薬局は現在、どれくらい広がっている?」
「今後、健康サポート薬局はどうなる?」
本記事では、健康サポート薬局の定義から具体的な機能、認定基準、現状での課題まで、体系的に解説します。
超高齢社会における地域包括ケアシステムの中核として期待される健康サポート薬局の将来性や、そこで働く薬剤師のキャリアパスについても展望します。最後まで読むことで、医療機関との連携強化や予防医療の推進など、これからの日本の医療体制における健康サポート薬局の重要性が理解できるでしょう。
目次
1.薬局の新しい形である健康サポート薬局とは?
健康サポート薬局とは、地域住民の健康維持・増進を支援する機能を備えた薬局です。
この制度は地域包括ケアシステムの一環として、健康相談の場を提供し、健康寿命の延伸を目的としてはじまりました。
具体的には、以下の機能を提供します。
- 服薬情報の管理や薬学的指導
- 24時間対応
- 在宅医療支援
- 医療機関との連携
- 健康相談の対応
- 要指導医薬品・一般用医薬品の取り扱い
- プライバシーに配慮した相談窓口の設置など
これらの機能により、健康サポート薬局は地域医療の充実に寄与し、地域住民の健康づくりを支援します。
2.健康サポート薬局の機能・サービス
健康サポート薬局には、大きくわけて2つの重要な機能があります。
ここでは、かかりつけ薬剤師・薬局機能と健康サポート機能それぞれの内容について、解説します。
かかりつけ薬剤師・薬局機能
かかりつけ薬剤師・薬局機能では、患者さんの薬物治療を総合的かつ継続的に支援する重要な役割を担っています。
以下に、かかりつけ薬剤師・薬局の主な機能とサービスをまとめます。
- 服薬情報の一元的・継続的な管理:患者さんが使用するすべてのお薬の情報を一箇所でまとめて把握し、重複投与やお薬の相互作用を防止します。
- 24時間対応と在宅医療のサポート:薬局の営業時間外でも、電話でのお薬の相談や緊急時の対応をおこないます。必要に応じて患者さんの自宅を訪問し、お薬の説明や服薬状況の確認もおこないます。
- 医療機関との連携:処方内容の確認や必要に応じた医師への提案をおこない、患者さんの状態を医療チーム全体で共有します。これにより、適切な治療とケアが提供されます。
これらの機能を通じて、かかりつけ薬剤師・薬局は患者さんの健康管理を総合的にサポートし、地域医療の質の向上に寄与しています。
健康サポート機能
健康サポート薬局は、地域住民の健康維持・増進を包括的に支援する役割を担っています。
以下に、健康サポート機能で提供する主なサービスをまとめます。
- 健康相談の実施:お薬に関することだけでなく、食事や運動、生活習慣など、健康全般に関する相談に応じ、適切なアドバイスを提供します。
- 要指導医薬品・一般用医薬品の販売:専門的な助言を交えたお薬の販売により、セルフメディケーションを支援します。
- 健康増進イベントの開催:健康セミナーや測定会などを実施し、住民が積極的に健康管理に取り組む場を提供します。
- 地域の医療機関や行政との連携:患者さんの健康状態や相談内容に応じて、適切な医療機関や行政サービスを紹介し、受診勧奨をおこないます。
これらの機能を通じて、健康サポート薬局は地域の健康拠点としての役割を果たし、住民の健康増進に貢献しています。
3.健康サポート薬局となる基準・要件
健康サポート薬局となるためには、以下のような基準・要件を満たし、所管の保健所へ届出をおこなう必要があります。
項目 | 詳細 |
かかりつけ薬局の基本的機能 | ・服薬情報の一元的・継続的把握 ・24時間相談対応 ・在宅医療への対応 ・医療機関との連携による受診勧奨 ・お薬手帳の活用促進 |
健康サポート機能 | ・健康相談窓口の設置 ・要指導医薬品・介護用品等の取り扱い ・健康サポートに関する取り組みの実施(例:健康増進イベントの開催) ・地域の医療機関や行政との連携体制構築 |
薬剤師の資質 | ・一定の実務経験を有し、所定の研修を修了した薬剤師が常駐していること |
開局時間 | ・平日の営業日は連続して開局 ・土日のいずれかも開局 |
これらの基準を満たすことで、地域住民の健康維持・増進を積極的に支援する「健康サポート薬局」として機能します。
なお、健康サポート薬局に関する基準・要件などの詳細は、厚生労働省公式サイトよりご確認いただけます。
4.伸び悩む健康サポート薬局の現状と課題
健康サポート薬局は新たな薬局の形として期待されていますが、届出薬局数自体は多くありません。
ここでは、伸び悩む健康サポート薬局の現状と、健康サポート薬局が広がる課題について解説します。
健康サポート薬局の現状:全国の届出数
健康サポート薬局は全国で3,232軒あり、全薬局数の約5%にとどまります。
都道府県別に届出されている健康サポート薬局数は、以下表のとおりです。
北海道 156 | 東京都 386 | 滋賀県 28 | 徳島県 26 |
青森県 33 | 神奈川県 199 | 京都府 54 | 香川県 35 |
岩手県 28 | 新潟県 74 | 大阪府 315 | 愛媛県 46 |
宮城県 45 | 山梨県 15 | 兵庫県 79 | 高知県 24 |
秋田県 35 | 長野県 79 | 奈良県 28 | 福岡県 131 |
山形県 25 | 富山県 18 | 和歌山県 49 | 佐賀県 14 |
福島県 86 | 石川県 40 | 鳥取県 12 | 長崎県 32 |
茨城県 108 | 岐阜県 39 | 島根県 18 | 熊本県 41 |
栃木県 48 | 静岡県 78 | 岡山県 66 | 大分県 28 |
群馬県 49 | 愛知県 96 | 広島県 83 | 宮崎県 16 |
埼玉県 187 | 三重県 50 | 山口県 44 | 鹿児島県 20 |
千葉県 135 | 福井県 15 | 沖縄県 19 |
※引用元:厚生労働省公式サイト「健康サポート薬局の件数」令和6年9月30日時点
健康サポート薬局が広がるための課題
健康サポート薬局が広がるためには、以下の課題を解決する必要があります。
- 薬剤師の研修要件の負担:健康サポート薬局研修の修了や5年の実務経験が必要で、要件緩和や研修制度の見直しが求められています。
- 要指導医薬品・一般用医薬品の販売不足:一部医薬品で販売実績が少なく、よりいっそうの地域住民に対するセルフメディケーション支援が必要です。
- 薬局側のメリット不足:健康サポート薬局に与えられるインセンティブが限定的で、制度活用の意欲を高める施策が必要です。
- 制度の認知度向上:健康サポート薬局の認知度が低く、地域における役割の明確化と広報活動が重要です。
これらの課題を解消することで、地域住民への健康支援が拡大し、制度の普及が促進されるでしょう。
5.健康サポート薬局と薬剤師の未来は?今後の展望
薬局の新たな形として期待されながら、さまざまな課題があり伸び悩む健康サポート薬局は、今後どのようになるのでしょうか?
ここでは、健康サポート薬局と、それに関わる薬剤師に関する今後の展望について考察します。今後、健康サポート薬局に取り組むうえでの参考にしてください。
健康サポート薬局の今後
健康サポート薬局は、今後よりいっそうの役割を発揮するため、機能強化される可能性があります。それにともない、以下の点でさらなる展開が予想されます。
- 地域支援体制加算への影響:
薬局の役割拡大にともない、地域包括ケアシステムにおける薬局の位置づけが再評価され、地域支援体制加算の要件見直しに影響を与える可能性があります。
- 保険調剤以外の収益源の確保:
要指導医薬品や一般用医薬品の販売、健康相談、介護用品の提供など、多様なサービス展開により、保険調剤以外の収益源になることが期待されます。
- 要件の見直しと薬局の誘導:
要件の緩和や見直しが職能団体から要請されているため、より多くの薬局が健康サポート薬局として機能できるような制度設計が期待されます。
上記のような展開により、健康サポート薬局は地域医療の中核としての役割を果たし、住民の健康増進に貢献することが期待されます。
健康サポート薬局に関わる薬剤師の未来
健康サポート薬局に関わる薬剤師については、要件や役割が現実的かつ実践的な形に変化していく可能性があります。現在、薬剤師には研修修了や5年以上の実務経験が求められているものの、これらの要件は負担との指摘もあります。今後は、現場の実情に即した要件の見直しが進むとともに、薬剤師が地域医療における幅広い役割を担うことが期待されるでしょう。一方、健康サポート薬局は地域連携薬局などの要件にも絡むことから、今後は研修だけでなく、各種実績が求められる可能性もあります。需要の高い薬剤師になるため、現行要件を満たすだけでなく、地域連携や多職種との協力に対応できるスキルを習得し、実績を積み重ねることが重要です。これにより、地域住民への貢献度がさらに高まるでしょう。
6.まとめ
健康サポート薬局は、地域の健康づくり拠点として期待される新しい薬局の形です。24時間対応やかかりつけ薬剤師の配置など高い要件が必要なため、全国の届出数は約3,000件にとどまっています。しかし、高齢化の進展やセルフメディケーションの重要性から、その必要性は今後さらに増すと考えられます。これからの薬剤師には、調剤に加え、予防医療や健康相談のスキルが求められるでしょう。健康サポート薬局の普及は、地域包括ケアの柱となり、国民の健康増進に寄与する可能性を秘めています。