医療や介護のニーズが拡大し、薬局の役割はより重要になっている中、地域医療に貢献する薬局を評価するために創設されたのが地域支援体制加算です。
しかし、以下のような疑問を持つ方も多いでしょう。
「地域支援体制加算を算定するメリットは?」
「地域支援体制加算の具体的な算定要件は?」
「地域支援体制加算算定に向けた取り組みのポイントは?」
本記事では、地域支援体制加算の概要や種類、算定要件を整理し、取得に向けた実践的な方法を解説します。地域で選ばれる薬局を目指し、加算の活用方法を学びましょう。
目次
1.地域支援体制加算とは?
医療や介護を取り巻く環境が変化する中、地域の薬局が果たす役割は拡大しています。特に、在宅医療や服薬指導の充実が求められる中で、地域支援体制加算は重要な制度の一つです。適切な医療提供を継続するために設けられた仕組みについて、詳しく見ていきましょう。
地域支援体制加算の概要と目的
地域支援体制加算は、地域医療に貢献する薬局を評価するために設けられた調剤報酬の加算です。この加算は、地域包括ケアシステムの推進にともない、2018年の調剤報酬改定で新設されました。 加算の要件では、薬局の体制整備だけでなく、地域医療への具体的な貢献実績も重視しています。具体的には、かかりつけ薬剤師による薬学的管理や服薬指導、在宅の実績、休日や夜間の対応実績などが評価されます。 このように、地域支援体制加算は、地域医療への貢献度に応じて薬局を評価する加算です。
地域支援体制加算の種類と点数
地域支援体制加算は調剤基本料の区分と実績要件により、以下の4種類に分かれます。
加算区分 | 点数 | 要件 |
1 | 32点 | 調剤基本料1を算定 実績要件10項目中3項目以上 |
2 | 40点 | 調剤基本料1を算定 実績要件10項目中8項目以上 |
3 | 10点 | 調剤基本料1以外を算定 実績要件10項目中3項目以上 |
4 | 32点 | 調剤基本料1以外を算定 実績要件10項目中8項目以上 |
上記のとおり、地域支援体制加算1と2は調剤基本料1を算定する薬局しか取れず、それ以外の薬局は加算3または4が適用されます。
2.薬局における地域支援体制加算算定のメリット
地域支援体制加算を算定することで、薬局のサービス向上や経営の安定化が期待できます。患者さんの利便性が高まり、薬局の収益にもよい影響を与えるため、積極的に取り組む価値がある加算です。地域での競争力強化にもつながるメリットについて、詳しく見ていきましょう。
患者さんがより充実したサービスを受けられる
地域支援体制加算を算定する薬局は、患者さんへより充実したサービスを提供可能です。具体的には、かかりつけ薬剤師として患者さんが24時間いつでも相談できる体制を整えています。 さらに、健康サポート機能を持つ薬局では、以下の取り組みを通じて地域住民の健康維持・増進を包括的に支援しています。
- 健康相談の実施
- 要指導医薬品・一般用医薬品の販売
- 健康増進イベントの開催
- 地域の医療機関や行政との連携
これらの取り組みにより、患者さんは日常的な健康相談から在宅医療まで、幅広いサポートを受けられます。
薬局経営における収益がアップする
地域支援体制加算を算定することで、薬局経営における収益がアップします。この加算は、処方箋1枚あたりに一定の点数が上乗せされる仕組みのため、薬局で対応する処方箋の枚数に応じて収益増加に直結します。たとえば、地域支援体制加算1(32点)を算定する薬局が、月に1,200枚の処方箋を受け付ける場合、年間で約460万円の粗利益増加が見込まれるでしょう。 地域支援体制加算の算定は、薬局の経営基盤を強化し、持続可能な運営に寄与します。
地域における差別化戦略に役立つ
地域支援体制加算を取得することで、薬局は地域における差別化戦略に役立てられます。この加算の要件には24時間対応や多職種連携が含まれており、これらを満たすことで、他の薬局との差別化が可能となります。また、地域連携薬局の認定を受けることで地域医療への積極的な関与が評価され、患者さんや医療機関からの信頼を得やすくなるでしょう。これらの取り組みにより、地域における薬局の存在感を高め、患者さんから選ばれる薬局となることが期待できます。
3.地域支援体制加算の算定要件
加算算定には、薬局の実績や体制の整備が求められます。一定の算定実績を積み重ねることに加え、地域医療との連携や継続的なサポート体制の確立も必要です。算定基準を満たすための要件について、詳しく見ていきましょう。
薬局における各種算定実績
加算算定には、薬局の実績が重要な要素となります。以下に、各加算区分ごとの算定要件をまとめます。
算定区分 | 加算点数 | 必要実施要件 |
1 | 32点 | 10項目中3項目 ※④かかりつけ薬剤師指導料等の実績は必須 |
2 | 40点 | 10項目中8項目 |
3 | 10点 | 10項目中3項目 ※④かかりつけ薬剤師指導料等の実績、⑦在宅薬剤管理の実績は必須 |
4 | 32点 | 10項目中8項目 |
なお、実績に必須である加算別の項目および1年間での算定回数は、以下のとおりです。
項目 | 加算1・2 | 加算3・4 |
①時間外等加算および夜間・休日等加算の算定回数 | 40回 | 400回 |
②麻薬等加算の算定回数 | 1回 | 10回 |
③重複投薬・相互作用等防止加算および在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料の算定回数 | 20回 | 40回 |
④かかりつけ薬剤師指導料およびかかりつけ薬剤師包括管理料の算定回数 | 20回 | 40回 |
⑤外来服薬支援料1の算定回数 | 1回 | 12回 |
⑥服用薬剤調整支援料1および2の算定回数 | 1回 | 1回 |
⑦単一建物診療患者が1人の場合の在宅患者に対する薬学的管理・指導の実績 | 24回 | 24回 |
⑧服薬情報等提供料の算定回数 | 30回 | 60回 |
⑨小児特定加算の算定回数 | 1回 | 1回 |
⑩多職種と連携する会議への出席回数 | 1回 | 5回 |
※「⑩多職種と連携する会議への出席回数」以外は、年間受付1万回につき薬局の実績や体制に応じて、適切な加算区分を目指すことが重要です。
算定のための体制要件
実績要件に加えて、以下の体制要件を整備する必要があります。
- 地域における医薬品供給体制
- 医薬品備蓄:1,200品目以上を常備
- 薬局間連携:在庫情報共有・医薬品融通
- 衛生材料供給:在宅訪問薬剤管理指導時に対応
- 麻薬免許取得:適切な指導・管理体制整備
- 後発品調剤割合:処方箋集中率85%超なら70%以上維持
- 医薬品情報提供:一般名・剤形・安全情報の提供
- 休日・夜間対応
- 開局時間:平日8時間以上・土日いずれか開局、週45時間以上
- 24時間対応:休日・夜間も調剤・在宅業務に対応
- 患者相談:夜間・休日の問い合わせ対応、緊急連絡先の周知
- 周知徹底:行政・医療・福祉機関へ情報提供
- 在宅医療の連携
- 医療機関との連携:訪問看護・診療所と情報共有
- 福祉関係者との協力:ケアマネ・地域包括支援センターと連携
- 在宅薬学管理:年間24回以上の訪問実績
- 体制整備:研修・計画書作成・薬局外部へ在宅対応の掲示
- 医療安全
- PMDAメディナビ登録:最新医薬品情報の収集・周知
- プレアボイド事例報告:年1回都道府県へ報告
- 副作用報告体制:手順書作成・報告
- 地域医療貢献
- 要指導・一般用医薬品販売:48薬効群取り扱い
- 健康相談・教室開催:生活習慣改善支援
- 女性の健康支援:緊急避妊薬の備蓄・相談対応
- 禁煙推進:敷地内禁煙・たばこ販売禁止
- その他
- かかりつけ薬剤師:かかりつけ薬剤師指導料およびかかりつけ薬剤師包括管理料の届出
- 患者ごとの情報管理:薬歴管理・指導の実施
- 管理薬剤師の要件:保険薬局勤務5年以上・週32時間以上勤務・在籍1年以上
- 薬剤師研修:研修計画の作成と実施・学会参加推奨
- 患者対応強化:プライバシー保護・高齢者対応
これらの体制要件を満たすことで、地域支援体制加算の算定が可能となり、薬局の地域医療への貢献度を高められます。なお、地域支援体制加算の要件は、健康サポート薬局と共通する部分が多いのが特徴です。地域支援体制加算とあわせて健康サポート薬局の取得も検討している方は、以下の記事も参考にしてください。
4.地域支援体制加算算定に向けた取り組みのポイント
加算を取得するには、薬局の体制整備と継続的な取り組みが求められます。スタッフの知識向上や算定目標の明確化に加え、地域の医療・福祉機関との連携強化も重要です。適切な準備と戦略的な取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
スタッフへの教育研修を実施する
加算の取得には、多岐にわたる要件を満たす必要があります。そのため、スタッフへの教育研修を実施し、必要な知識と技能を習得させることが不可欠です。具体的には、在宅医療やかかりつけ薬剤師の役割など、地域医療に貢献するための研修が求められます。これらの取り組みを通じて、薬局全体のサービス向上と地域医療への貢献が期待できます。
算定目標を明示して取り組む
加算の要件を達成するには、薬局全体で明確な算定目標を設定し、組織的に取り組むことが重要です。具体的な数値目標を定めることで、スタッフ全員が共通の目標に向かって努力しやすくなります。また、進捗状況を定期的に確認して必要に応じて戦略を見直すことで、目標達成の可能性が高まります。なお、服薬情報提供料や外来服薬支援などの算定を増やすなら「つながる薬局」がおすすめです。患者さんとLINEでのコミュニケーションができるため、服薬情報提供料や外来服薬支援などの算定に活用できます。ぜひLINEで患者さんとつながれる「つながる薬局」の利用をご検討ください。
多職種連携のため薬局外に活動を広げる
加算の取得には、多職種との連携が欠かせません。しかし、薬局や薬剤師が多職種連携の会議に容易に参加できるわけではなく、日頃からの関係構築が重要です。医師やケアマネージャーとの信頼関係を築き、情報共有や相談を重ねることで、地域医療の中での役割を確立しやすくなります。薬局外へ積極的に活動を広げ、多職種との接点を増やすことが、効果的な連携の第一歩となります。
5.まとめ
地域支援体制加算を取得することで、薬局は患者さん支援の充実や経営の安定を図りながら、地域医療に貢献できます。特に、多職種との連携や在宅医療への対応を強化することで、地域の中で求められる役割が広がるでしょう。また、スタッフの教育や算定目標の明確化を進めることで、地域支援体制加算取得に向けてスムーズな運用が可能になり、継続的な加算の算定にもつながります。地域に根ざした薬局運営を実現するために、日々の取り組みを見直し、地域支援体制加算の取得をふまえたよりよい体制づくりを進めていきましょう。