専門医療機関連携薬局は、がん治療に特化した薬学的支援を提供する薬局として2021年に制度化されました。
専門医療機関連携薬局に興味はあるものの、次のように感じている方も多いのではないでしょうか。
「専門医療機関連携薬局は何件くらいあるの?」
「地域医療における役割は?」
「今後の普及に向けた課題は?」
専門医療機関連携薬局は高度な専門性と連携体制が求められる一方で、認定数は限られ、全国への普及は道半ばです。
この記事では、制度の仕組みや認定状況、薬剤師に求められる要件、地域で果たすべき機能、制度拡充の展望について解説します。最後まで読むことで、専門医療機関連携薬局の必要性と、自薬局が今後果たすべき役割のヒントが得られるでしょう。
目次
1.専門医療機関連携薬局とは?
専門医療機関連携薬局とは、がんなど専門的な薬学管理が必要な患者に対し、医療機関と連携して高度な薬物療法を支援する薬局です。
2021年の薬機法改正により制度化され、都道府県知事の認定を受けた薬局がこの名称を使用可能です。認定要件には、専門薬剤師の配置や医療機関との情報共有体制、プライバシーに配慮した設備などが含まれます。これにより、患者さんは専門的な薬学的支援を地域で受けられるようになります。
2.専門医療機関連携薬局の現状と認定状況
専門医療機関連携薬局の制度が開始された2021年8月以降、認定数は以下のように推移しています。
年月 | 認定数 |
2021年8月 | 38件 |
2022年3月 | 99件 |
2023年3月 | 141件 |
2024年3月 | 191件 |
2024年9月 | 205件 |
このように認定数は着実に増加していますが、全国の薬局数(約60,000薬局)に対する割合は依然として低い状況です。
今後、専門医療機関連携薬局の役割を地域で発揮するには、認定薬局の増加とともに、患者さんや医療関係者への認知度向上が求められます。
3.専門医療機関連携薬局の認定要件と薬剤師の役割
専門医療機関連携薬局の少なさは、求められる認定要件や薬剤師の役割に関するハードルの高さに起因しているとも考えられます。
ここでは、専門医療機関連携薬局の認定要件と薬剤師の役割について解説します。
専門医療機関連携薬局の認定要件
専門医療機関連携薬局として認定を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 対象疾患:現在は「がん」に対応する薬局が対象
- 構造設備:患者さんが座って服薬指導を受けられる個室など、プライバシーに配慮した設備。高齢者や障がい者が利用しやすいバリアフリー環境の整備も必要
- 情報共有体制:専門医療機関との定期的な会議への参加や患者さんの薬剤使用情報についての報告・連絡体制の整備
- 業務体制:休日や夜間の調剤対応、時間外の電話相談体制の整備。地域の他の薬局への医薬品提供体制や情報提供実績も必要
- 薬剤師の配置と研修:継続して1年以上勤務している常勤薬剤師の半数以上の配置。がんに関する専門性を有する常勤薬剤師の配置や、薬剤師全員への専門的な研修の計画的な実施も必要
これらの要件を満たすことで、専門医療機関連携薬局としての認定を受けられます。
薬剤師に求められる専門性と研修
専門医療機関連携薬局では、がん薬物療法に精通した薬剤師の配置が必要です。
以下の資格を持つ薬剤師が、がん薬物療法に精通した薬剤師として認められます。
- 日本臨床腫瘍薬学会「外来がん治療専門薬剤師」
- 日本医療薬学会「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」
これらの資格を取得するには、次のような要件を満たす必要があります。
- 経験:5年以上の実務経験
- 研修:学会主催の研修会や講習会の修了、がん診療病院連携研修の修了など
- 症例報告:規定数の症例報告提出と審査通過
- 試験・面接:筆記試験や口頭試問
なお、2024年10月時点の各学会資格の認定数は、以下のとおりです。
- 外来がん治療専門薬剤師(薬局勤務):341名
- 地域薬学ケア専門薬剤師(がん):129名
専門医療機関連携薬局に必須とされるがん薬物療法に精通した薬剤師は、まだ少ない状況です。
4.専門医療機関連携薬局の地域医療における役割
専門医療機関連携薬局は、特定の疾患に対して専門的な対応ができる薬局として地域医療における重要な役割を担います。
そのため、関係機関と協力しながら、地域全体の医療体制を支えるための取り組みが進んでいます。
ここでは、専門医療機関連携薬局の役割について詳しくみていきましょう。
高度な薬学管理と専門的な服薬指導
専門医療機関連携薬局では、がんなどの疾患に対して、専門的な薬学管理と服薬指導を提供することが求められます。これには、専門医療機関との連携を通じて、患者さんの治療方針や服薬情報を共有し、適切な薬学的管理をおこなうことが含まれます。患者さんの副作用や服薬アドヒアランスに関する情報を医療機関にフィードバックする体制の構築も重要です。これらの取り組みにより、患者さんは地域で専門的な薬学的支援を安心して受けられます。
医療機関との情報共有と連携体制
専門医療機関連携薬局は、医療機関との情報共有と連携体制の構築が不可欠です。患者さんの服薬状況や副作用の有無を医師と共有することで、より安全で効果的な治療が実現します。具体的には、定期的なカンファレンス参加や服薬情報の文書報告、電話・FAX・ICTによる連絡体制の整備が必要です。医療機関と薬局が相互に支え合う環境をつくることで、患者さんを中心とした切れ目のない医療が提供できるようになります。
地域の薬局への情報提供と研修支援
地域における薬学的支援体制を広げるため、専門医療機関連携薬局には情報提供と研修支援の役割も期待されています。特にがん治療に関する内容は、専門性が高く、他の薬局が独自に対応するのは難しい場合も。そこで、治療薬の知識や副作用の対応法などを、資料提供や事例共有を通じて伝えることが求められます。定期的な研修会や勉強会を実施することで、地域全体の薬剤師の対応力向上が図れます。
5.専門医療機関連携薬局の普及に向けた課題
専門医療機関連携薬局の機能を全国に広げていくには、さまざまな課題に向き合う必要があります。
薬局の機能強化を図るには現場の体制や地域性の違いも無視できません。
ここでは、専門医療機関連携薬局の普及に向けた主な課題について、詳しく見ていきましょう。
人材確保と専門性の担保
専門医療機関連携薬局の普及には、質の高い人材を確保し、専門性を継続的に保つことが不可欠です。特にがん治療を支える高度な薬学的知識と経験を持つ薬剤師の育成が求められています。専門薬剤師の資格取得や研修参加を支援する制度の整備に加え、継続的なキャリア支援も重要です。
今後は人材が集中する都市部と地方の格差をどのように解消していくかも大きな課題となり得るでしょう。人的資源の安定供給が制度の根幹を支える要素となります。
医療機関との連携における障壁
専門医療機関連携薬局の機能を十分に発揮するには、医療機関との連携が欠かせません。しかし現実には、診療体制や人員配置の違いにより、情報共有が難しい場面も見られます。特に大規模病院では薬局とのやり取りに時間を割きにくく、連携体制が整いにくい場合があります。また、IT環境や連絡手段の差も連携の妨げとなるのも実情です。こうした医療機関との連携における障壁を減らすことが、今後の普及促進には重要です。
地域偏在の問題
専門医療機関連携薬局は都市部を中心に認定が進んでいますが、地方では導入が進まず、認定薬局が0件の県も複数存在します。2025年3月時点では、東京都で19件、神奈川県で18件、大阪・北海道で17件の認定があるものの、秋田県や鳥取県などでは1件も認定されていません。この地域偏在の問題は、患者さんが住む地域によって専門的な薬学支援を受けられるかの差につながります。全国で均等に機能が整備されるよう、今後は地方への支援拡充が必要です。
6.専門医療機関連携薬局制度の今後の展望
専門医療機関連携薬局制度は、現在がんを対象とした薬局のみが認定対象となっています。しかし今後は、HIVや小児難病など、継続的かつ専門的な薬学管理が必要な疾患にも対象が広がる可能性があります。対応領域が拡大することで、地域における薬剤師の役割は一層重要となり、専門性と連携力が求められるでしょう。制度の進化に合わせ、薬局側も柔軟な体制整備や人材育成を進めていくことが求められます。
7.まとめ
専門医療機関連携薬局は、がん治療を中心とした高度な薬学的支援を地域で提供する役割を担います。専門薬剤師の配置や医療機関との情報共有体制が求められるため、普及には人材確保や連携環境の整備が欠かせません。また、対象疾患の拡大や地方での機能強化が期待されます。
当記事を参考に、専門医療機関連携薬局の現状と課題を把握し、薬局としての今後の方向性を考える一助として役立ててください。