執筆者・監修者:薬剤師
薬局DXは業務効率化だけでなく、すべての人が安心して利用できる仕組みづくりが重要です。
デジタル化の恩恵を誰もが受けられるようにするには、ウェブアクセシビリティの視点が欠かせません。
しかし、次のように感じる方も多いでしょう。
「ウェブアクセシビリティって何?」
「薬局でなぜウェブアクセシビリティが必要?」
「ウェブアクセシビリティの具体例が知りたい」
当記事では、薬局DXの現状と高齢者が抱える課題を整理し、誰でも使えるデジタル薬局を実現するための実践策を解説します。
最後まで読むことで、ウェブアクセシビリティを活かした「選ばれる薬局経営」への具体的なヒントが得られるでしょう。
目次
1.薬局DXの現状:多様化する取り組み
薬局業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、業務の効率化や患者さんへのサービスの向上を目指す動きが広がっています。電子処方箋の導入やオンライン服薬指導、アプリを活用した情報共有など、デジタル技術の活用は多岐にわたります。
ここでは、薬局DXを支える主要な取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
【業務効率化】電子処方箋・電子薬歴の導入
薬局では、紙の処方箋や薬歴を電子化する動きが活発化しています。紙の処方箋は手入力する運用から、電子処方箋をシステムで管理する形へと移行が進んでいます。
また、薬歴もクラウド化され、情報を一元的に共有できるようになりました。これにより、調剤や入力などの対物業務が減り、薬剤師は患者さんとの対話や服薬フォローに時間を割くことが可能です。薬歴の定型入力や自動監査の仕組みを取り入れることで、業務の効率化とヒューマンエラーの防止にもつながっています。結果として、薬局全体で「人に向き合う医療」への転換が進行しています。
【患者さんとの接点強化】オンライン服薬指導と患者さん向けアプリの利用
薬局では、オンライン服薬指導の導入が進み、外出が難しい高齢者や遠方の患者さんでも自宅で薬剤師の指導を受けられるようになりました。これにより、患者さんの通院負担が軽減し、治療の継続率向上にもつながっています。
また、服薬記録やリマインダー機能を備えた患者さん向けアプリを活用すれば、服薬忘れの防止やフォローアップの強化が可能です。アプリ上でのチャット相談や服薬スケジュール管理機能を組み合わせることで、患者満足度と服薬遵守率の双方を高める取り組みが広がっています。
【かかりつけ化の促進】LINEやアプリによる便利機能活用
薬局では、LINEや専用アプリを活用し、患者さんがより身近に薬局を利用できる環境づくりが進んでいます。処方箋の画像送信や来局予約、服薬リマインダーなどの機能を取り入れることで、薬局との接点を継続的に保てます。
また、健康相談や生活習慣の記録機能を組み合わせることで、患者さんの健康意識向上にもつなげることが可能です。たとえば、LINEのチャット相談やアプリ内のお薬履歴確認機能を使えば、薬剤師が日常的にサポートできる体制が整います。
結果として、かかりつけ薬局・薬剤師としての関係をより強固に築けるでしょう。
2.DXの最大の落とし穴!高齢者が使えないデジタルツールの現実
薬局で導入されるデジタルツールは、高齢者にとって必ずしも使いやすいものとは限りません。操作の難しさが利用意欲を下げ、結果的にDXの恩恵を受けにくくなっているのが現状です。
高齢者が直面する主な課題は、以下のとおりです。
- 操作手順が複雑で、タップや入力の回数が多い
- 文字やアイコンが小さく、視認性が低い
- 画面構成や仕様変更が頻繁で、操作を覚える負担が大きい
上記の課題を放置すれば、デジタル格差が拡大し、薬局の利便性向上が一部の世代にしか届かない恐れがあります。
3.薬局DX時代に求められるウェブアクセシビリティとは?
デジタル化が進む薬局業界では、誰もが情報へ平等にアクセスできる環境づくりが求められています。とくに、高齢者やデジタル機器が苦手な利用者に配慮した設計は、薬局の信頼性を左右する要素となります。
ここでは、ウェブアクセシビリティの基本と薬局経営における重要性について確認していきましょう。
ウェブアクセシビリティとは?
「ウェブアクセシビリティ」は、年齢や身体状況、利用環境などに関わらず、すべての方が情報や機能を利用できる状態を意味します。
たとえば、視力の低下した高齢者が文字を識別できなかったり、スマートフォン操作に不慣れな方が入力できなかったりする状況を改善するために欠かせない考え方です。具体的には、読み上げソフト対応、十分な文字サイズ・コントラスト、キーボード操作対応などがあげられます。
薬局が安心してサービスを提供する基盤として、誰もがアクセス可能なデジタル環境を整えることが求められています。
ウェブアクセシビリティが薬局経営の生命線となる理由
薬局の主要な利用者層である高齢者がデジタルサービスを使いこなせなければ、来局頻度の低下・収益機会の逸失につながり経営リスクに直結します。
たとえば、以下のような事態が想定されるでしょう。
- 操作画面が読みづらく薬局から離脱
- スマホ非対応で予約機能を活用しない
- 情報発信が届かず信頼関係が希薄となる
一方、誰でもアクセス可能なウェブやアプリ設計を取り入れることで、高齢者との接点を維持・拡大できる体制が整います。
上記より、薬局にはウェブアクセシビリティを経営戦略の重要要因として捉える必要があるといえます。
4.ウェブアクセシビリティを取り入れた「つながる薬局」に学ぶ|高齢者にも対応するDX戦略
薬局のデジタル化が進む中で、利用者に寄り添う設計思想が重要視されています。なかでも「つながる薬局」は、LINEを活用しながら高齢者でも使いやすい仕組みを実現しています。
誰も取り残さないDXの形として注目される取り組みについて、具体的な工夫と方針を見ていきましょう。
「誰でも使える」を実現|デザイン理念と具体的な改善点
「つながる薬局」は、誰もが迷わず利用できることを目的に、LINE公式アカウントのデザインと操作性を全面的にリニューアルしました。
※参考:https://psft.co.jp/pharmacy/news/20250925_2.php
全面リニューアルでは、幅広い年代のユーザーにとって快適な利用体験を追求しています。
主な改修点として、以下の取り組みが挙げられます。
- 配色設計・文字サイズ・メニュー構成の刷新:視認性と操作性を高め、直感的な操作を実現
- リッチメニューの改善:利用頻度の高い機能を大きく配置し、色と文言で即時認識可能に
- 導線設計の最適化:薬局検索から処方箋送信までを一貫してスムーズに操作可能
上記の工夫により、世代やデジタルスキルの差に左右されない、誰でも使える薬局DXを実現しています。
目標は国際基準「WCAG 2.2」|信頼を生む透明性
「つながる薬局」は、すべての利用者が安心して使える環境づくりを目指し、ウェブアクセシビリティの国際基準「WCAG 2.2」を目標としたポリシーを制定しています。
※参考:https://psft.co.jp/accessibility/
デザイン理念として掲げるのは「誰でも使える、迷わず進める、つながることで安心できる」という考え方です。高齢者や支援を必要とする方を含め、全世代に配慮した設計をおこない、達成項目を明示することで透明性を高めています。
優先的に対応済みの項目例として、以下が挙げられます。
- コントラスト
- 意味のある順序
- ラベルや説明の明確化
- 一貫したナビゲーション
上記を公表しながら取り組むことにより、患者さんや導入薬局の皆さまからより信頼されるサービス提供を目指しています。
5.ウェブアクセシビリティで薬局DXを成功に導くために
薬局DXを成功へ導くには、デジタル化そのものよりも「誰も取り残さない仕組みづくり」が重要です。とくに高齢者を含む幅広い利用者が安心して使える設計は、信頼される薬局づくりに直結します。
ここでは、薬局が今すぐ実践できる工夫と、将来を見据えた取り組みを紹介します。
自薬局のデジタルツールは大丈夫?明日からできる簡易チェック
薬局が運用するウェブサイトやアプリは、高齢者や障がいのある方も含め、誰にとっても利用しやすい設計が求められます。
ウェブアクセシビリティの第一歩として、専門知識がなくても確認できる項目を以下に示します。
- 文字と背景のコントラスト:明暗差が十分あり、文字が読みやすいか
- キーボード操作:マウスを使わず主要機能にアクセスできるか
- 画像の代替テキスト:写真やボタンに説明文が設定されているか
- リンク表記:「こちら」ではなく内容を明確に示しているか
- 時間制限や自動操作:入力や閲覧の途中で自動更新されないか
デジタル庁の「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」で示されているように、こうした基本項目の確認だけでも、サービスの信頼性を高める第一歩となるでしょう。
ウェブアクセシビリティは未来の「かかりつけ薬局」への投資
ウェブアクセシビリティへの対応は、単なる技術改善ではなく、信頼を積み重ねる薬局の経営戦略です。見やすく使いやすい設計は高齢者を含む幅広い層の利用を促し、結果的に患者満足度とリピート率を高めます。さらに、DXやオンライン服薬指導など新しいサービスを展開しやすい基盤づくりにもつながります。アクセシビリティへの投資は、薬局が地域に選ばれ続ける「未来志向の経営資源」といえるでしょう。
6.まとめ
ウェブアクセシビリティを意識した薬局DXは、高齢者を含むすべての利用者に寄り添う医療の形です。情報やサービスへ平等にアクセスできる環境を整えることで、患者満足度と信頼を高められます。また、見やすく使いやすい設計は、薬局のブランディングにもつながります。当記事を参考に、誰もが安心して利用できるデジタル薬局づくりを進め、地域で選ばれ続ける薬局経営を実現してください。

