執筆者・監修者:薬剤師
2026年調剤報酬改定では、医療従事者の賃上げと物価高騰への対応を柱とした二段階改定が実施されます。薬剤師や事務職員の処遇改善は課題ですが、以下のような不安を抱える経営者や現場の方も多いのではないでしょうか。
「新設される評価料の具体的な算定ルールは?」
「二段階改定のスケジュールにどう対応すべき?」
「賃上げの原資を確実に確保する方法を知りたい」
本記事では、新設された調剤ベースアップ評価料や調剤物価対応料の仕組み、算定に必要な施設基準や事務手続きを解説します。さらに、処方箋集中率の厳格化に備えた地域密着型経営への転換についても解説します。最後まで読めば、複雑な改定内容を正しく理解し、安定した店舗運営とスタッフの処遇改善を両立させる具体的な道筋が見えるでしょう。
目次
1.2026年調剤報酬改定の全体像
医療DXの推進や地域医療の変化に伴い、薬剤師を取り巻く環境は大きな転換期を迎えました。特に近年の社会情勢を反映したコスト増大への対応は、持続可能な薬局経営を実現する上で避けて通れない 課題といえます。
本章では、今回の調剤報酬改定で注目すべき具体的な運用方針について解説します。
調剤報酬の改定率と二段階改定のスケジュール
2026年(令和8年度)調剤報酬改定では、医療従事者の賃上げと物価高騰への対応を目的とした二段階改定が導入されます。令和8年6月と令和9年6月の2回に分けて点数が引き上げられる変則的なスケジュールに注意が必要です。
具体的な改定の仕組みを、以下にまとめました。
- 令和8年6月施行:新設される評価料等の算定を開始
- 令和9年6月施行:初年度の点数を「100分の200」などへ倍増
- 改定率:診療報酬全体で2年度平均+3.09%のプラス改定(賃上げ・物価対応分を含む)
上記の措置により、賃上げの原資を段階的に確保する構造がとられています。施行時期が2年にわたるため、レセコン改修や現場の運用変更も2回発生する点を念頭に置く必要があります。長期的な視点で収益シミュレーションをおこない、適切な算定体制を整えましょう。
薬局における賃上げ・物価高への重点配分と影響
今回のプラス改定は、深刻な物価高騰への補填と、医療従事者の処遇改善を実現するために重点配分されています。コスト増大に直面する現場の負担を和らげ、質の高い薬学管理を継続させる狙いがあります。
改定による資源配分の主な対象は、以下のとおりです。
- 賃上げ対応:薬剤師や事務職員の給与引き上げ原資の確保
- 光熱水費:高騰するエネルギー価格等の物件費の補填
上記は薬局の固定費増大を直接的に補う重要な施策といえます。経営体質の強化を図るためにも、新設点数の算定要件を漏れなく確認し、適切な利益を職員へ還元する姿勢が求められます。各店舗は速やかに収支計画を再構築し、安定した運営基盤を固めましょう。
2.新設「調剤ベースアップ評価料」の算定ルールと賃上げへの還元方法
2026年調剤報酬改定で新設された調剤ベースアップ評価料は、医療従事者の処遇改善を目的として、賃上げ原資を確保するために設計された新たな評価項目です。調剤ベースアップ評価料は、令和8年6月から処方箋の受付1回につき4点の算定が始まり、令和9年6月以降は8点へと段階的に引き上げられるスケジュールが組まれています。物価高騰や他産業の賃金上昇にあわせて薬局スタッフの給与水準を直接的に底上げする仕組みは、人材の確保と定着を図る上で重要です。適切な運用をおこなうには、算定要件の遵守とともに中長期的な経営視点に基づいた活用が欠かせません。
本章では、調剤ベースアップ評価料の具体的な仕組みや運用の注意点を解説します。
処方箋受付ごとに算定!薬剤師・医療事務職のベア実現が条件
調剤ベースアップ評価料は、算定収益をすべて対象職員の賃金改善に充てることが厳格なルールとして定められています。基本給や決まって支給する手当の引き上げによって、スタッフの処遇を確実に改善する体制を整えなければなりません。
賃上げの対象となる職種や主な算定要件を、以下に整理しました。
- 対象職種:薬剤師及び事務職員等(薬局に勤務する職員)
- 還元ルール:算定による収益の全額を基本給等の引き上げに充当
- 算定単位:処方箋受付1回につき点数を計上
定期昇給分とは別にベースアップを実施し、賃金改善計画書を作成する義務があります。算定にあたっては実績報告も必要となるため、計画的な労務管理と適切な賃金設計を実行しましょう。
令和9年6月から点数が2倍に!継続的な昇給計画の重要性
調剤ベースアップ評価料を算定する際は、点数が倍増する令和9年6月の改定を見据えた長期的な昇給計画を立てる必要があります。2年かけて段階的に引き上げられるスケジュールにより、将来の増収分も確実に賃金へ反映させる仕組みが求められます。
時期ごとの点数推移と算定上の留意点を、以下にまとめました。
| 施行時期 | 点数 | 求められる対応 |
| 令和8年6月〜 | 4点 | ベースアップ等の賃金改善計画の策定と実施 |
| 令和9年6月〜 | 8点 | 増点分(100分の200)の全額を基本給等へ充当 |
一度引き上げた基本給を下げることは困難なため、慎重な収支予測のもとで持続可能な処遇改善を継続しましょう。計画的な昇給の実行は、スタッフの安心感や薬局全体の競争力を高めるために重要です。
3.コスト増を補填する「調剤物価対応料」の仕組みと運用上の注意点
急激なインフレに伴う光熱費や消耗品費の増大は、薬局経営を圧迫する深刻な要因となっています。2026年調剤報酬改定で新設された調剤物価対応料は、物件費の高騰を補填するために導入されました。令和8年6月から1点の算定が始まり、令和9年6月には2点へと引き上げられる段階的なスケジュールが特徴です。従来の項目とは異なる変則的な算定体系が採用されているため、請求ミスを防ぐための正確な理解が欠かせません。
調剤物価対応料の概要や実務上の留意点を詳しく確認しましょう。
3か月に1回算定の特殊ルールとレセコン設定のポイント
調剤物価対応料の運用には、同一患者に対して3か月に1回のみ算定可能という頻度制限への対応が欠かせません。毎回の処方箋受付時に自動加算される点数ではないため、レセコンでの正確な履歴管理と設定が必要です。
特に注意すべき管理のポイントを、以下にまとめました。
- 算定間隔の把握:前回の算定日から起算して3か月が経過しているかを確認
- 自動チェック機能:レセコンの算定不可期間における警告表示や自動除外設定の活用
システムの機能を活用し、算定要件を満たしたタイミングで計上できる体制を構築しましょう。請求漏れを防ぐためのチェックリストを作成し、受付スタッフ全員で共有する対策も有効です。
光熱水費の高騰に対応!令和9年度の倍増を見据えた戦略
調剤物価対応料の算定は、令和9年度に向けた薬局の経営基盤強化を図る足掛かりとなります。点数が1点から2点へと倍増するスケジュールを見据え、コスト削減と収益確保を両立させる戦略的な運営が求められます。
将来的な点数増加の効果を最大化するための取り組みを、以下に整理しました。
- DXによる省力化:自動分包機や在庫管理システムの導入で業務効率を高める
- エネルギー管理:光熱水費の節減に向けた設備投資や店舗運用の見直し
- 算定率の維持:3か月に1回の算定機会を逃さない請求管理体制の徹底
単なる点数の加算に頼るのではなく、業務のデジタル化による効率化をセットで進めることが経営に影響します。令和9年6月の引き上げ時に利益を最大化できるよう、今から強固な店舗基盤を構築していきましょう。
なお、薬局の対人業務におけるDX推進を考えるなら、LINEを使ったサービスである「つながる薬局」がおすすめです。つながる薬局なら、電子お薬手帳機能や処方箋送信・オンライン服薬指導・服薬フォロー・Web問診・介護施設連携など、薬局業務の効率化に寄与する機能があるため、ぜひご利用ください。
4.2026年調剤報酬改定に向けて今から準備すべき賃上げ計画と経営効率化
新たな報酬体系への移行は、単なる点数計算の変更にとどまらず、薬局運営の根幹に関わる重要な転換点となります。加算を確実に収益へ結びつけるには、早期から内部体制を整備し、制度の趣旨に合致した組織づくりを進めることが欠かせません。
安定した経営基盤を確立するための戦略的な対応について、確認していきましょう。
賃金改善実施計画書の作成と就業規則の見直し
調剤ベースアップ評価料を算定するには、先行する医科の事例に倣い、事務手続きと労務環境の整備を同時並行で進める必要があります。厚生局への届け出だけでなく、具体的な賃金改善の方法を明記した計画書の作成が必須となる見込みです。
算定開始までに準備しておくべき主な対応を、以下に整理しました。
- 賃金改善実施計画書の策定:対象職員ごとの昇給額や改善期間の明確化
- 就業規則の改定:ベースアップに伴う賃金規定や手当の項目見直しと周知
- 厚生局への届け出:算定要件を満たす体制であることを示す書類の提出
特に基本給を増額する場合は、就業規則の変更届を労働基準監督署へ提出するなどの法的プロセスも欠かせません。制度の詳細が公表され次第、速やかに社内の給与体系を見直し、円滑に届け出ができる体制を整えてください。
処方箋集中率の厳格化に対応する地域密着型への転換
2026年調剤報酬改定では処方箋の集中率が厳格化するため、特定の医療機関に依存しない地域密着型の薬局運営が生き残りの必須条件となります。処方元を分散させ、地域住民から選ばれる「かかりつけ機能」を強化することが収益基盤の維持に直結します。
多角的に集患を実現するために優先すべき取り組み例を、以下にまとめました。
- 広域処方箋の応需拡大:面での分業を意識した利便性の向上や備蓄薬品の拡充
- 在宅医療の本格実施:居宅療養管理指導の積極的な展開による専門性の発揮
- 医薬品供給拠点としての体制強化:地域支援・医薬品供給対応体制加算を見据えた、後発医薬品の使用促進や安定供給への貢献
特定の門前薬局という立ち位置から脱却し、広域からの処方箋獲得や在宅ニーズへの対応が必要です。地域社会に深く根ざした医療サービスを提供し、どのような経営環境下でも揺るがない強固な基盤を構築しましょう。
なお、広域処方箋の獲得には、患者さんの利便性を高めるデジタルツールの活用が有効です。「つながる薬局」のようなLINEを活用したサービスは、処方箋送信やメッセージ機能を備えており、地域住民との継続的な接点づくりに寄与します。
DXツールを導入し、選ばれる薬局としての体制を整えることが地域密着型経営への近道です。その一つとして、ぜひ「つながる薬局」の利用を検討してください。
5.まとめ
2026年調剤報酬改定は、賃上げと物価高騰への対応を主とした二段階の増点という、異例の仕組みが導入されます。新設された「調剤ベースアップ評価料」や「調剤物価対応料」の算定ルールを正しく把握し、確実に収益へ結びつけることが薬局経営の安定に直結します。また、令和9年6月の倍増を見据えた長期的な賃金改善計画の策定や、DX活用による業務効率化も同時に進めるべきです。本記事で解説した算定要件や準備事項を参考に、スタッフの処遇改善と地域密着型経営の両立を実現してください。
